┃無実の罪を「自白」する心理メカニズム
人はなぜ、やってもいない罪を「自白」するのか。なぜ冤罪(えんざい)が生まれるのか。『虚偽自白を読み解く』(浜田寿美男著、岩波新書)の著者は、心理学鑑定の第一人者として、40年にわたり虚偽自白の問題と格闘してきた。「虚偽自白」とは、無実の人が自ら犯人だと「偽り」、やってもいない犯行を「ことば」で語ることである。足利事件、狭山事件、袴田事件などの重要な事件で、第一線で心理学鑑定を行ってきた経験を基に、虚偽自白が生まれる捜査の過程に生じる構造的な問題について追究する。
冤罪がなくならない背景には、「無実の人の虚偽自白」への無理解がある、としている。無実の人が虚偽の自白をするなどあり得ない、多くの人の常識ではそう考えられるだろう。本書では、「常識」の向こう側にある落とし穴を解き明かしていく。無実の人が冤罪に巻き込まれていくさまざまな過程は、誰にとっても他人事ではないと考えさせられる。
2009年、郵便不正事件で厚労省局長時代に逮捕された村木厚子氏は「偽の障害者団体の金儲けのために偽の証明書を発行」したという罪に問われた。『日本型組織の病を考える』(村木厚子著、角川新書)では、「やってはいないことをやったと言わないこと、うその自白調書を取られないこと」という、極めて当たり前に思えることをやり通すことの難しさが、当時の詳細なエピソードと共に語られている。昨今、官僚による公文書の改ざん、隠蔽といった、「信じられないような不祥事」が相次いでいる。いったん組織として方針が定まると間違ったと思ってもなかなか止めることができないし、引き返すこともできない。そうした「日本型組織」の限界について、硬直した組織をどう変えていくべきかを語る。
情報化社会の急速な発展により、知的財産権をめぐる状況は大きく変動している。「知的財産権のことを知らないと、『やけど』をしかねない時代となった」。こう警鐘を鳴らすのが、『こうして知財は炎上する/ビジネスに役立つ13の基礎知識』(稲穂健市著、NHK出版新書)の著者である。一般的な解説書では、知的財産権について「著作権、商標権、特許権」などと、各権利別に説明されていることが多い。本書では、そうした知的財産権の基本を押さえたうえで、別々に発達してきた複数の知的財産権が互いに絡み合う、複雑な事例を中心に解説している。
また、法的には問題はなくても「炎上した」事例を紹介し、その背景にも触れる。法的には「セーフ」な事案であっても、もめ事を起こすリスクを考えて必要以上に萎縮したり、スポンサーへの過剰な「忖度(そんたく)」が行われたりする局面が増えている、と指摘する。一般の人も、感情に流されてヒステリックに騒ぎ立てないよう、「知財リテラシー」を身に付けて欲しいとアドバイスする。
┃まだ解明されていない「土」の謎
『土 地球最後のナゾ/100億人を養う土壌を求めて』(藤井一至著、光文社新書)の著者は、「土」の研究者。研究のため、ただひたすら土を掘ると本人は言う。いかにも地味な分野のようだが、極北の永久凍土から、砂漠や熱帯雨林の土まで、スコップ片手に文字通り泥にまみれ、世界各地を飛び回る姿は、冒険家のような一面もうかがわせる。地球上の土は大きく分類すると12種類しかないという。毎日の食卓を支え、増え続ける世界人口を支えることのできる、「肥沃な土」「いい土」の条件とは何か。農産物の収穫量を上げ、良い土壌が生まれるための条件、土壌改良の技術についてなど、実はまだあまり知られていない「土」の重要さを熱く語る。
日本列島の地質について、さらにスケールの大きい話題を取り上げているのが『フォッサマグナ/日本列島を分断する巨大地溝の正体』(藤岡換太郎著、ブルーバックス)。「フォッサマグナ」は、今から140年ほど前、古代ゾウの化石を発見したことで有名になったドイツの地質学者、エドムント・ナウマンにより命名された巨大地溝。現在に至っても、その成り立ちは謎に包まれ、どこまでがフォッサマグナなのかについても、まだはっきりとはしていないという。日本列島の成り立ちを考えるうえで欠かせない、巨大な構造の謎についてチャレンジし始めている研究者が、世界中で増えているという。
※2018年8月刊行から