毎月数十点が出版され、「教養」「時事」「実用」と幅広い分野を網羅する日本の新書の新刊を通して、日本の最新事情を考察します。
┃「失敗と挫折の30年」平成を振り返る
平成も残りわずかとなって、さまざまな視点からの「平成史」や、平成という時代を総括する新書の刊行がここしばらく続いている。
『平成史講義』(吉見俊哉編著、ちくま新書)では、もうすぐ終わろうとする平成を「史」として語るには、まず「昭和の終わり」、つまり戦後レ ジームの終えんから始めなければならないとしている。戦後に形成された日本的なシステムを30年かけて失った時代の、挑戦の失敗と挫折の繰り返しを、さまざまな分野の第一人者が「若者の困難」や「中間層の空洞化」といった10のテーマで語る。
『平成の教訓/改革と愚策の30 年』(竹中平蔵著、PHP新書)の著者は、「失われた 30 年」と見るのは誤りだ、と主張する。「平成とは数々の政策と愚策がまだら模様を織りなした30年だった」としている。竹中氏が「改革」と評価している(自身が旗振り役となった)郵政民営化などの政策、住専に対する公的資金の注入などの「愚策」と批判するものそれぞれを、検証している。良い面と悪い面がまだらに共存していた30年というが、誰にとっての「良い面」か、ということについては評価が分かれて当然だろう。タイトルからして「お前が言うか?」と言いたくなる人も多いかもしれないが、平成の改革を振り返る1つの視点としては興味深い。
この30 年間、「難しいことをわかりやすく」を売りにしてきた池上彰氏が、ついに出した新書のタイトルは『わかりやすさの罠/池上流「知る 力」の鍛え方』(池上 彰著、集英社新書)。「わかりやすさの罠」とは、わかりやすい説明、耳に心地良い言葉だけを聞いて、「わかったつもり」に なり、自分で関心をもってニュースを見たり、新聞の記事を読んだりしなくなってきているという危うさのことである。
「単純な話をやさしい英語で話す」トランプ大統領の演説スタイルはまさに、「わかりやすさの罠」が世界の政治を変えた一例だ、と指摘する。「私の番組だけをみて、ああよくわかった、と満足してしまう人たち」に「わかりやすさ」のその先を知ってもらうにはどうしたらよいか、悩んでいるという。
変化の激しいこれからの時代こそ、自分の頭で考え、「わかったつもり」と「わかった」の間の深い溝を越えていかなければいけない、と訴える。
┃ 「承認欲求」という自分の中のモンスター
「承認欲求」という言葉は、昨今よく見るようになった。元来、他人から認められたいという気持ちを持つのは人間の正常な欲求のひとつである。『「承認欲求」の呪縛』(太田 肇著、新潮新 書)の著者は、「承認欲求」が強くなり過ぎ、「認められたい」思いがいつの間にか「認められねば」 に代わっていく状態を「承認欲求の呪縛」と名付けている。
著者は、個人と組織の関係についてを基本に、20 年以上も前から「承認」「承認欲求」についての研究を続けてきた。一連の研究の中で、これ まで彼は「承認欲求」という言葉をポジティブな意味でのみ使ってきた。しかし、本書では、時代の変遷と共にクローズアップされてきた「承認欲求」の負の側面を取り上げている。
倒産寸前の日産を再建させ、「カリスマ」として君臨していたカルロス・ゴーン氏の突然の失脚。昨年東京地検特捜部に逮捕され、108 日ぶりに保釈されたゴーン日産前会長は、4月4日に4度目の逮捕で再び勾留が決まった。「追放」までには何があったのか。『日産vs.ゴーン/支配と暗闘の 20年』(井上久男著、文春新書)では、長年自動車業界への取材を続けてきた著者が、その背景を振り返る。
仏外相が再逮捕と勾留を問題視するなど、国際社会も注視するこの「大事件」。日産の権力闘争だけにとどまらず、今後の日本の自動車産業の行く末も左右することは間違いない、としている。
※ 2019 年 2 月刊行から(次号につづく)
※2019年1月刊行から