シアトル近郊の専門家たちが、悩み多きバイリンガル子育てについて回答。子どもと楽しむ、子育てのヒント。
Q. 人種問題がニュースなどで騒がれている中、アメリカという国に住むことについて改めて考えさせられます。多様性社会において、共存していくためのヒントを教えてください。
A. バイリンガルの子どもが夢を叶えるために忘れてはいけない重要な要素があります。それは「自分は今、アメリカという多民族国家の中にいる」という事実を認識し、相手を理解しようとすること。子どもが「真のバイリンガル」となり、夢を実現できるようにサポートしてあげましょう。
こんな質問に皆さんならどう答えるでしょうか。「新しい語学を習得後にかなえたい夢は何ですか?」
仕事をスムーズに進められるようになりたい、友だちの輪を広げたいなど、たくさんの夢を考えただけでワクワクしますね。しかし、語学を習得してスタートラインに立てたとして、その夢は確実に手に入れられるものでしょうか? 語学に加えて、「自分の思いを伝える【相手】は、自分と異なる視点を持っている」と意識することが必要です。アメリカでは、文化・宗教・人種と異なるバックグラウンドを持つ人々がスタートラインに立ちます。習得した言語をツールとして、自分と異なる視点を持つ【相手】に対し、自分の思いを伝える。それには、相手がどういう人なのかを知り、異なる文化・宗教・歴史を知ろうとすることが大切です。
「バイリンガル」という言葉を辞書で引くと、「状況に応じて二つの言語を自由に使う能力があること。また、その人。二か国語で表現されていること(出典:三省堂)」とあります。つまり、言語そのものを理解したうえで社会や文化の背景も知ることが、言語を「自由に使う能力」と言え、これこそ多様性社会で共存するために必要なものです。特に順応性がある幼少期に、アメリカのような多様性社会の意味を体と心で理解できれば、子どもたちの未来に大きな影響を与えることでしょう。では、異国の地で子どもの夢をサポートするために、そして、多民族国家のアメリカで共存していくためには何ができるでしょうか? 「親目線」でいくつか紹介したいと思います。
●みんな違って、みんな良い
「十人十色」とはとても良い言葉で、世界に1人として同じ人はいません。つまり、答えは無数にあるのです。多様性社会に生きることとは、数学のように計算式で答えを出すことではありません。信念の違いを互いに理解し、相手を信頼することが基本です。パレットの異なる絵具の色を混ぜ合って新しい色を作り上げていくことこそ大事。当園ではできるだけ発言の機会を設け、どの発言も異なる視点から正しく、お互いの考えを知り、違いを認めることが大切だと伝えるようにしています。
●相手の立場に立って考えられる視点を持つ
多様性社会で個々を取り巻く環境、思いは異なり、相手に寄り添える人間性を築くことは共存するうえで大きな意味をなします。当園ではパンデミックに際し、第一線で働く方々を思い、感謝を伝えるために千羽鶴を折り、地元の病院、警察署、消防署、スーパーマーケットなどへ届けると同時に、メディアを通して子どもたちからのメッセージを送りました。
●親として1歩を踏み出す勇気を持つ
日本と違い、アメリカでは子ども同士が遊びたいと思っていても、親がお互いを知らない場合はなかなか難しいのが現状です。まず、「あの子は誰? どんな親なの?」といった親同士の不安を取り除くために、子どもとの会話でよく出てくる友だちの親に連絡を取れるようにしてみてはいかがでしょうか? 違う環境で生活している方々の輪の中へ自分から飛び込んでみることです。
●アイデンティティーを確立する
多様性社会では「自分のルーツは?」「自分は誰?」と不安に思う子どもも出てくるかもしれません。「日本人としてどう思う?」、「どんな歴史を経て今の経済成長があるの?」といった質問を通して自国を理解し、日本人として木の根を大地にしっかりと張っていくことで、多様性社会に対応できる「自分」が形成されていきます。
混沌とした時代こそ、相手を理解し、多様性社会で共存する力を養うことが必要。お互いの違いを乗り越え、相手との心の距離が近くなった時に、「真のバイリンガル」になれると確信しています。
インターナショナル・ラーニング・ アカデミー(ILA)
バニスキー英代さん
日米の大学で国際関係学、少数民族学を専攻。東海岸の人権擁護団体でのインターンを経て、総務省の外郭団体に勤務。東日本大震災の際には東京英語いのちの電話にて災害救援部を担当。ILAの「多文化社会で生活する子どもたちの懸け橋に」の理念の下、誰もが平等をモットーに子どもたちが広い視野で心豊かに育つよう日々向き合っている。
International Learning Academy
11512 NE. 19th St., Bellevue, WA 98004
☎425-698-1373
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