ミシェルさんは、以前に何回かブラジルにいる母方の親族を訪ねたことはあったが、一族の歴史をきちんと調べたことはなかった。2018年、海外での仕事に関心を持つアーティストを対象とする地元のワークショップに参加したのをきっかけに、日系ブラジル人の親族のことをもっと知りたいと思うようになった。ミシェルさんは、ブラジルでさまざまな人に話を聞いてアートを制作するための助成金をキング郡の文化支援プロジェクト「4Culture」から受けることに成功。まずはフロリダ在住の日系ブラジル人の親類、リカルド・ハラグチさんに連絡を取ることにした。長年、一族の情報を収集し、家系図を作成しているリカルドさんは、ミシェルさんの協力依頼に快く応じ、滞在中のインタビューやホームステイの調整をしてくれた。2019年、サンパウロを訪れたミシェルさんはとても温かく迎えられ、2週間かけて50人近くもの親族と会うことができた。
親族の話を聞きながら、驚くこともあった。第二次世界大戦中の日系ブラジル人と日系アメリカ人の体験が非常に似通っているのだ。日系ブラジル人には、日系アメリカ人のような強制収容はなかったが、戦争中は強制的に移動させられ、人種差別を受けた。外出禁止令、集会禁止令が出され、日本語を話すことも禁じられ、多くの日系ブラジル人が理由もなく逮捕・投獄されたと親族は言う。ミシェルさんの作品「Be Quiet」では、1940年代を生きた日系ブラジル人をたたえ、彼らが直面した人種差別と弾圧を取り上げている。「この作品で、口を覆われ、声を上げることができない両親は、子どもを守るためにその口を覆い、人種差別、弾圧、恥辱のサイクルを続けています」。同じような現象が米国でも起こったとミシェルさんは続ける。強制収容から生きて帰った日系アメリカ人たちは、子どもたちが日本文化から距離を置き、アメリカ社会に溶け込むことを望んだのだ。「ブラジルの親族の若い世代は、一族の歴史を知りませんでした。アートを見せながら共有することで、彼らは興味をそそられ、先祖に誇りを持つようになりました」
現地での取材を通じて、ミシェルさんは祖母や曽祖父母のことを詳しく知り、より豊かにイメージできるようになったとも語る。「夫を亡くした50代半ばの曽祖母が故郷を離れ、リスクを冒して言葉も文化もわからない新しい国へと移住した勇気に、驚きと誇りを感じます。今も私たちを結び付ける国際的な家族のつながりは、祖母や曽祖父母から受け継がれた贈り物であり財産です」
アートを通して社会に影響を与えたい
ミシェルさんは、体験の聞き取りとアート制作により、自身のストーリーを未来の世代と共有すべく活動を続ける。これには、ウィング・ルーク博物館での経験が役立っていると明かす。「(博物館での仕事で)個人的なストーリーの持つ価値と力を知りました。12年間、コミュニティーの人々がストーリーを語るのを手助けするうちに、私も自分の家族のストーリーを探ってみたいと思うようになったのです」
ミシェルさんの作品のモチーフは日系人が中心だが、そこには幅広い人々とつながることができる普遍的なテーマがある。「これは日系人だけのストーリーや経験ではありません。人種差別、文化抹消、弾圧は、世界中の黒人・先住民・有色人種に影響を及ぼし続けています。歴史に学び、問題に対処できなければ、過ちを何度も繰り返すことになります」
同じように声を上げ、世の中に影響を与えたいと思っているアーティストたちに対して、ミシェルさんはアドバイスを送る。「自分の心と情熱に従う。大好きなこと、自分にとって意味のあることをする。人と会い、質問し、耳を傾け、謙虚になり、進んで学び続ける。この3つを大切に活動していって欲しいですね」