スペシャルインタビュー
ピアニスト 辻井伸行さん
10年ぶりのシアトル公演!
世界が認める天才ピアニストとして日本国内外で活躍する辻井伸行さんが、2013年以来、10年ぶりにシアトルで公演。1月26日・28日、ダウンタウンのベナロヤ・ホールでシアトル・シンフォニーと共にラフマニノフのピアノ協奏曲第2番を演奏しました。その公演直前に、ソイソースがインタビュー! 辻井さんの最近の活動や音楽への思いを聞きました。
取材・文:本田絢乃 写真:シアトル・シンフォニー提供
辻井伸行■
1988年東京生まれ。幼少の頃よりピアノの才能に恵まれ、98年、10 歳でオーケストラと共演してデビューを飾る。2009年6月に米国テキサス州フォートワースで行われた第13回ヴァン・クライバーン国際ピアノ・コンクールで日本人として初優勝して以来、国際的に活躍している。
―シアトルより先に、1月19日にはニューヨークのカーネギー・ホールでソロ・リサイタルがありましたね。
約3年半ぶりにカーネギー・ホールのステージに立てて、とてもうれしかったです。事前発売のチケットが完売していたこともあり、会場は満席でした。最後は非常にたくさんのお客さまから拍手をもらい、本当に幸せな時間だったと感じます。
―今回のシアトル公演は、シアトル・シンフォニーのラフマニノフ生誕150周年記念コンサート・シリーズになりますが、演奏曲にラフマニノフのピアノ協奏曲第2番を選んだのはなぜですか?
ピアノ協奏曲を演奏する場合、基本的には僕のレパートリーを渡して、オーケストラ側にその中から選んでもらうことがほとんどです。この曲は、ラフマニノフが交響曲第1番での失敗を乗り越え、ピアノ協奏曲第2番によって再び作曲家として認められたという背景もあり、とても希望に満ちた作品。僕自身、2009年のヴァン・クライバーン国際ピアノ・コンクールのファイナルでこの曲を演奏して優勝しました。根本は変わらないけれど、少なからず人生には変化が起きたので、そういう意味でラフマニノフと通じるものがあって、この曲は本当に思い出深い大切な作品です。
―アンコール演奏もコンサート鑑賞の楽しみのひとつですが、会場の空気感などで変えたりすることはあるのでしょうか?
たとえば、カーネギー・ホールのソロ・リサイタルでは、バッハ「主よ、人の望みの喜びよ」、グリーグの抒情小曲集第5集より「小人の行進」、リスト「ラ・カンパネラ」の順に3曲でしたね。 実はアンコール曲をどうするか、事前には決めていません。会場の空気を感じながら、「今日はこの曲を弾こう」というふうに、当日の雰囲気に合わせて考えています。先日のカーネギー・ホールでは、2曲目のアンコール演奏が終わったあと、「どうしようかな、これで終わりにしようかな」と迷ったのですが、皆さんの熱気が伝わってきたので3曲目も弾くことに決めました。
―今回のシアトル滞在での楽しみは?
シアトル・シンフォニーと演奏するのは2013年以来、今回で2回目ですが、シアトルには親戚が住んでいるので旅行では何度か来ています。それでも数年ぶりのシアトル滞在なので、久しぶりに親戚と再会したり、現地ならではのおいしいものを食べたりしたいですね。シアトルの人たちに、また僕のピアノを聴いてもらうことができてうれしく思います。
―パンデミック中のYouTubeチャンネルの立ち上げやオンライン・コンサートの開催には、どんな思いがあったのでしょうか?
コロナ禍でコンサートができない期間がずっと続いていて、それは僕にとっても初めての経験でした。どうしたら良いのかいろいろ悩みましたが、少しでも皆さんに音楽でメッセージを伝えたいという強い思いから、このような活動を始めました。
―今後、さらに挑戦してみたいことは?
音楽家として、もっとレパートリーを増やし、さらに多くの人から愛されるピアニストになりたいと思っています。あとは、小学校を訪問するなど、子どもたちに音楽の素晴らしさを伝える活動を少しずつですが始めています。
―シアトルにも音楽家を志して頑張っている、たくさんの子どもたちがいます。どんな言葉をかけてあげたいですか?
音楽の練習も大事だけれど、ほかにも自分の好きなことを見つけて、いろいろ吸収しながら目標に向かって頑張って欲しいです。僕も小さい頃、ピアノはもちろん好きでしたが、山登りや水泳、釣り、陶芸などたくさんの趣味を持っていて、気分転換になっていました。自然の中を歩いて風を感じたり、小鳥の鳴き声を聞いたりすると、イメージが浮かんでくることもあります。音楽以外の好きなことをしている時間がまた、音楽の経験にプラスの効果をもたらしていた気がします。
―最後に、ソイソース読者やシアトルの日本人ファンへメッセージをお願いします。
海外で生活することはとても大変だと思います。コンサートで音楽を聴く時間が、少しでも皆さんの楽しみになれば幸いです。