シアトルの知恵ノート
知っておくと暮らしが豊かになるヒントを、シアトルで活躍するさまざまな専門家の方に聞きます。
乳幼児期に身に付けておきたい力
乳幼児期は人生の土台を築く大切な時期です。生まれてから小学校に上がるまでの5、6年間で子どもが身に付けたい力として、どんなものが挙げられるでしょうか。
めぐみ保育園
赤澤静枝■日本での幼稚園勤務経験を生かし、現在はめぐみ保育園で保育士として活躍。乳幼児期にふさわしい心の成長を遂げていけるよう、ひとりひとりが生き生きと自分らしさを発揮しながら安定して生活できる環境づくりを目指す。
Megumi Preschool
2750 Northup Way, Bellevue, WA 98004
☎425-827-2540
bellevue@megumipreschool.com
https://megumipreschool.com
意欲と思いやりを育む
小さな命がこの世に生まれてきた瞬間から、私たちはその子に大きな期待を抱き、大事に育てます。「こんな子に育って欲しい」という願いはどの家庭にもあると思いますが、めぐみ保育園で子どもたちと毎日を過ごしている、私たち保育者もそれは同じ。子どもたちには「意欲」と「思いやり」のある人になって欲しい、と願っています。
「意欲」とは、さまざまなことに興味が向き、「自分もやってみたい!」と思う気持ちのこと。成長と共に「自発性」にもつながります。自ら行動する子どもたちを見ると、意欲が育っていることを確信し、うれしくなります。夢中で遊ぶ子どもたちの目は、キラキラと輝いています。何もない空間でも想像力を働かせ、遊びを発展させながら、さらに楽しみや目的を見出していきます。
そして「思いやり」は、他者へ向けられる優しい心です。「人に優しくしなさい」、「優しい子になりなさい」と口で伝えて身に付くものではありません。思いやりは、親や周囲の大人たちに愛され、大事にされるという体験をすることで育まれていきます。この体験の積み重ねから、子どもは他者の気持ちを察したり受け入れたり、共感する姿勢を持つようにもなります。この思いやりの心は、他者と信頼関係を築くために欠かせない要素のひとつです。子どもが愛されている、大事にされていると実感できるような関わりができたら良いですね。
遊びは子どもにとっての学びの場
遊ぶためには、集中力や考える力、お友だちと遊んでいる時ならば協調性も必要。そうした力が遊びを通して自然と養われていきます。周囲から何かを指示されなくても、懸命に取り組む子どもの遊びは、まさに「学び(学習)」の時間と言えます。
そのためにも、自由に遊べる環境が保障されることが大切です。そこに大人たちの制約や理想が存在すれば、子どもの興味は半減してしまうかもしれないからです。自由な環境の中で、意欲のある子どもは自分で考え、目標(自己課題)を見つけます。それを達成した時には「やったー! うれしい!」と心が満たされ、うまくいかなければ「どうしてだろう?」と振り返って考え、再挑戦します。
乳幼児期に、この遊びの楽しさを十分に経験して欲しいと思います。遊びながら失敗や成功の体験を繰り返すことは、その子の自信となって表れていきます。大人が何かを教え込まなくても、乳幼児期から意欲が備わっている子は、年齢が進むにつれて学習意欲の盛んな子どもに育ちます。
私たち大人は、ちょっとしたことに口を出し、指示してしまいがちです。そのひと言が、子どもが自ら伸びようとしている瞬間を奪い、やる気を削いでしまうかもしれません。子どもを信じ、任せてみることで、その子の新たな一面を発見したり、自分とは違う子の考えや世界観に気付くきっかけになったりすることもあります。
夢中になって取り組んでいる時間は、考えていろいろ工夫し、何かを成し遂げようとする過程であり、これから子どもの力が伸びるためにもなくてはならないもの。子どもが遊んでいる姿を傍から見守る姿勢を保ちつつ、助けを求められたら手を差し伸べられるよう、その機会を見失わないこともまた重要です。
情緒の安定と甘え
「抱き癖が付くから」、「わがままになるから」と、抱っこやスキンシップを控えていませんか。子どもの自立を期待して、子どもの甘えたい気持ちを我慢させるのは、かえって逆効果です。十分に甘えを受け入れてもらえたら、子どもは自然と前向きになり、親から離れ、頑張る姿勢を見せてくれるものです。自分を受け入れ、甘えさせてくれる人の存在が後ろ盾となり、自立に向かう近道にもなります。
乳幼児期にたくさんのスキンシップや抱っこで甘えを受け入れてもらえた子は、その喜びで安心感を得て、情緒が安定します。子どもが成長する過程で、たっぷりと甘えられる環境があると、心が満たされ、緊張や不安といったストレスになるような感情から心が解放されます。伸び伸びとした自己表現が可能になり、ありのままの自分で良いという自信(自己肯定感)を得られます。自信がある子どもは、日々の生活の中で生じるさまざまな出来事に対応することができ、心身共に鍛えられ、成長していくのです。
乳幼児期にしっかりと情緒が安定し、意欲と思いやりの心を身に付けた子どもたちは、将来大人になっても、常に自分で考え、選択し、自分の力で将来を切り開いていくでしょう。今すぐ目に見える成果として表れるわけではありませんが、成人以降、生きていくうえでの基礎(土台)作りには必須となる大きな力なのです。