子どもとティーンのこころ育て
アメリカで直面しやすい子どもとティーンの「心の問題」を心理カウンセラー(MA, MHP, LMHC)の長野弘子先生(About – Lifeful Counseling)が、最新の学術データや心理療法を紹介しながら解決へと導きます。
パンデミックの恐怖に打ち勝つには ~「自己コントロール感」を高めよう~
新型コロナウイルス感染拡大の影響で私の勤務するエージェンシーも閉鎖され、緊急の場合を除いてクライアントと直接会うことはできなくなり、電話やメールなどで対処している状態です。クライアントの中には、日が経つにつれて日常生活のリズムも崩れ、先行きの見えない不安感やストレスが相まって親子げんかがひどくなり、「もう無理!」と音を上げる家庭も。心ないアジア人差別のニュースを耳にしたり、身近なところでも「ウイルスを広めるな」と子どもが言われたという話を聞いたりと、日本人コミュニティーにもパンデミックの恐怖が広がっているのを感じます。
世界がグローバル化し、人や物の移動が激しくなるにつれ、感染病を含む予測不能な事態は今後も増えてくることが予想されます。その中で、落ち着いて冷静に対処し、自律的に問題を解決していくことのできる子どもに育てる秘訣は何でしょうか。それは、「自己コントロール感」を高めてあげることです。一般的に、自分自身や周囲をコントロールできているかどうかという「自己コントロール感」が高い人ほど、ストレス耐性が高く、不慮の事態に柔軟に対応できると言われています。自己コントロール感が高い人の特徴としては、1)やりたいことや目標がはっきりしている、2)その目標を達成するための計画を立て、状況に合わせて柔軟に変更することができる、3)自分の置かれている状況を受け入れることができる、です。つまり、常に自分に何ができるかを考えて行動し、目標の達成が難しくなった時には柔軟に代替案を見つけられる人とも言えます。コントロールできない状況下では解釈を変え、失敗した時も何を学んだかという肯定的な側面を探し出すことができるので、気分の落ち込みからいち早く立ち直ることができます。
それとは逆に、うつ傾向のある人は自己コントロール感が低いという調査結果が出ています。自分の力ではどうしようもないものに焦点を当てるので、無力感や絶望感を感じやすくなります。ニュースを見過ぎるのも、コントロールできない状況にフォーカスしているので無力感に陥りやすいでしょう。人間関係においても、自己コントロール感が低い人は自分よりもまず相手に焦点を当て、相手を支配しようとしたり、その逆に相手を過剰に優先して自分を犠牲にしたりと、「共依存」になりがち。暴力や正義、地位などで相手を支配するDV、モラハラ、パワハラで傷付けられる側が、「子どものため」、「あの人は私がいないとダメになる」などと思い込んでいるのも、共依存の典型例と言えます。他人にすぐ腹を立て、周囲の人間をコントロールしてしまう人は、無意識下では自己コントロール感が低く、常に不安と恐れを感じている状態です。今回のパンデミックでアジア人に対して差別的な言動をする人もまた、自分ではコントロールできない他人や状況に執着する自己コントロール感が低い人たちなのかもしれません。
自己コントロール感は、子どものやる気や学校成績にも関係しており、コントロール感が高い子どもほどやる気が高く、課題に積極的に取り組むという調査結果が出ています。自己コントロール感の高い子に育てるためには、好きな物や、やりたいことを肯定的に聞いてあげ、「本当にしたいことは何?」「あなたにできることは何?」など、その子がやりたいこと、できることに焦点を当てること。また、「この失敗から学んだことは何?」など、プラス解釈の考え方に導いてあげるのも大事。勉強が遅れて焦っている、友人と遊べずにストレスを感じている時など、「そうだね、不安になるよね」、「本当に退屈だよね」などと気持ちを受け止めたあとで、「この状況でもできることは何?」、「逆に良かったことは何?」と聞いて、勉強の目標や新しいことに挑戦する計画を立てるのもいいですね。実際にやるかどうかより、「自分が決めたんだ」というコントロール感のほうが実は大事で、そこから生まれる自己肯定感や前向きな気持ちが免疫機能を高めることもわかっています。手洗いなどの感染予防と共に、この機会に子どもの自己コントロール感を高める会話の習慣を取り入れてみてはいかがでしょうか。