子どもとティーンのこころ育て
アメリカで直面しやすい子どもとティーンの「心の問題」を心理カウンセラー(MA, MHP, LMHC)の長野弘子先生(About – Lifeful Counseling)が、最新の学術データや心理療法を紹介しながら解決へと導きます。
もっと生きやすくなる、セルフイメージを変える方法
「ねえ、ちょっと太った?」、「こんな点数じゃ、どの大学も行けないよ」など、つい子どもに言ってしまった経験はありませんか。親から発せられた何気ないひと言が、子どものセルフイメージを形作り、ひいては将来の成功や幸せにも影響を与えかねません。
セルフイメージとは、「自分についてどう思っているか」という心の中の自分の姿です。私たちは、親や教師、友人との会話、メディアなどさまざまなものから情報を得て、自分自身のイメージを作り上げていきます。ルックスや性格、頭の良さ、社会性、才能、価値観、ジェンダーなども含めた自分に対するイメージは、必ずしも事実に基づく客観的なものではありません。親からあまり褒められずに批判されてきた子どもは否定的なセルフイメージを持ちやすく、問題行動を起こしがちで、心の病気になるリスクも高くなります。
セルフイメージの中でも、特に子どもや若者にとって重要なのは「ボディーイメージ」です。つまり、自分のルックスについてどう思っているかということ。最近は、自分のボディーイメージに否定的なティーンが多く、アメリカでは13歳の女子の50%が自分の体に不満を持っており、17歳の女子になるとその数字は80%に跳ね上がります。ティーンの女子の80%近くが、太ることへの恐怖を抱いているという調査結果も出ています。SNSにスラッとしたかわいい女の子の加工写真が大量にあふれる中で、SNSを利用する頻度が高ければ高いほど、自分のボディーイメージに否定的になり、整形などを考慮する確率が高まるとされます。2017年にアメリカの整形外科医を対象とした調査では、インスタグラムやスナップチャットなどのSNSに載るフィルター加工したセルフィーを見せて、「こういう風にして」と希望する患者がいたとする医師は55%に上りました。こうしたトレンドから、「スナップチャット異形症」という名前も生まれています。
逆に、肯定的なセルフイメージを持つ人は、自分の長所も短所も客観的に見ることができ、ありのままの自分を認めることができる人。人生の課題にぶつかっても、理想の自分とのズレがあっても、自分の思いや欲求に忠実なので自分を押し殺す必要がなく、自然体で人と接することのできる生きやすい人生とも言えます。
否定的なセルフイメージを持つ人は、「今のままじゃダメ」、「~すべき」と、最初から自分がダメだと思っているので、理想の自分とのズレに自己嫌悪に陥ったり、自分の思いを隠して他人に合わせたり、生きづらさを感じがちです。「~じゃないと認められない」という条件付きの思考回路を持ったままだと、頑張って目標を達成しても「まだダメ」なので、次の解決すべき問題や目標に必死で取り組むことに。まるで延々と走り続けるラットレースのような人生になってしまいます。また、自分が信じられない分、他人という外部からの賞賛や評価という不確定なものに自己価値を委ねるため、評価が高まれば高まるほど逆に焦燥感や無価値感が強まる場合も。
それでは、どうすれば肯定的なセルフイメージを作ることができるのでしょうか? それは、自分を特別視しないことです。他人を見るように客観的に自分を見つめてみれば、極端に長所を過小評価し、短所を拡大解釈することが減ります。次に、大好きな人に対して話しかけるように「あなたは今のままで十分」と自分に話しかけ、大好きな動物を見るような優しい視線で「どんなあなたでも大丈夫」と自分を認めてあげましょう。最初は自己否定の声が大きく難しいかもしれませんが、自分が自分の大親友だと覚悟を決めて長所を探して応援し続けると、否定的な声は次第に小さくなります。
私たちは、他人から大切に思われたいのではなく、実は自分から大切に思われたいのです。生まれてから死ぬまで一生付き合う人間は、自分自身というたった1人。人生の最重要課題とは、セルフイメージをアップデートしながら、自分自身と素敵な関係を築いていくことかもしれませんね。
参考文献
①Body Image Statistics 2022: 47+ Shocking Facts & Stats
https://breakbingeeating.com/body-image-statistics/#Children_and_Teenagers
②Social Media and the Rising Trend of Cosmetic Surgery