知っておきたい身近な移民法
米国移民法を専門とする琴河・五十畑法律事務所 (K&I Lawyers) の五十畑諭弁護士が、アメリカに滞在するで知っておくべき移民法について解説します。
本コラムで提供される情報は一般的かつ教育的なものであり、個別の解決策や法的アドバイスではありません。また、情報は掲載時点のものです。具体的な状況については、米国移民法の弁護士にご相談ください。
H-1Bビザに関する新ルール
H-1Bビザは、特殊技術や知識を必要とする専門職に就く外国人労働者に適合するビザで、専門分野での学士号、または同程度の実務経験が必要となります。 通常、アメリカの4年制大学を卒業した外国人に利用されることが多いビザですが、海外で学士号を取得した、 あるいは同程度の実務経験がある外国人労働者にも適合します。また、H-1Bビザは職歴のない新卒者でも申請可能です。6月に署名された大統領令では、H-1Bビザ保持者を含む一部の就労ビザ保持者、またその家族のビザ発給を年内いっぱい保留し、アメリカへの入国を制限するという一時的な措置が取られ、それは現在も続いています。さらに、10月8日に、国土安全保障省は、アメリカの労働者の雇用機会を守るため、現在のH-1Bビザの申請条件をより厳しくする新ルールを発表しました。
H-1Bビザは、職務内容が、特殊技術や知識を必要とする専門職分野(Specialty Occupation)に相当することが申請条件の1つとなっていますが、新ルールでは、より厳格な学位と職務内容の直接的な関係性を証明するため、この専門職分野の定義を狭めています。たとえば、単なる商業(Business Administration)や、一般教養(Liberal Arts)といった特定の分野に限らない学位は認められず、具体的な専門性が問われることになります。また、スポンサー企業が、役職に対して複数の学位を受け入れている場合、それぞれの学位が、直接的に職務内容とつながっていることを証明しなければなりません。
さらに、現行のルールでは、学位取得は、業界で一般的(Common)に必要だと証明すれば良いのですが、新ルールでは、学位取得が最低条件(Minimum Requirement)として業界で確立していることを証明する必要があります。また、新ルールでは、外国人労働者がスポンサー企業から他社へ出向する場合、H-1Bの期限を最長1年までとしています。
新ルールは、新規の申請に限らず、延長、改正を含む全ての申請に該当し、10月8日の発表から60日後に施行されます。この60日間はフィードバック期間として設けられており、フィードバック・コメントを受けて、最終的なルールの内容に変更があるかもしれません。また、上記の発表があった同日に、労働省は、平均賃金(Prevailing Wage)を引き上げることを発表しました。
H-1Bビザは、スポンサー企業が最低賃金を保証することが申請の1つの条件となっており、労働統計局が出版している職業雇用統計のデータを使って平均賃金を決定しています。平均賃金は、地域によって職業ごとに、学位や経験をベースにエントリーレベルから有能レベルまで4段階で設定されています。新ルールでは、レベル1が賃金分布の17パーセンタイルから45パーセンタイルに、レベル2が賃金分布の34パーセンタイルから62パーセンタイルに、レベル3が賃金分布の50パーセンタイルから78パーセンタイルに、そしてレベル4が賃金分布の67パーセンタイルから95パーセンタイルに引き上げられることになり、全体的に平均賃金が上がるため、スポンサー企業の負担が大きくなります。このルールは、発表と同時に施行されています。
上記の新ルールがH-1B申請に影響が及ぼす可能性は計り知れません。一部では約3分の1の申請に影響が生じると予想されています。また、影響を受ける企業などが裁判を起こす可能性もありますので、今後の動向が注目されます。
続いて10月28日に、国土安全保障省は、H-1Bの抽選方法に関して法案を発表しました。現在、スポンサー企業は、電子登録システムに申請を希望する外国人労働者を事前登録し、当選した場合にのみ申請を提出することになっています。これは、H-1Bビザには年間発給数の上限があるものの、毎年それを上回る申請があるため、当選するかしないかわからない状況で申請書類を提出していた頃のことを考えると、申請の準備にかかる時間や費用を軽減することができるとして導入されました。抽選は登録者の中から無作為に行われています。しかし、今回の法案では、無作為の抽選を廃止し、平均賃金レベルの高いほうから優先順位を付けて選択する方法に変更することが提案されています。この法案は、近日中に連邦官報に出版され、その後フィードバック期間を経て、最終的なルールとなりますが、発表通りのルールとなった場合、エントリーレベルの申請が選択される可能性は非常に低くなります。つまり、これまでF-1ビザ(学生ビザ)でアメリカの4年制大学を卒業した外国人がOPT(専攻分野で最長1年の就労を許可する制度)を経て、H-1Bビザを利用することが一般的なケースでしたが、それが難しくなることが予想されます。