米国のベストセラー作家であり料理人、そんな二面性を持つキャスリーン・フリンさんの著書『ダメ女たちの人生を変えた奇跡の料理教室』(きこ書房)が、日本でその名を轟かせています。
取材:ブルース・ラトリッジ 翻訳:濱 杏林咲
ほんの少し買い、たくさん作り、捨てないしあわせ
冷蔵庫はいつもインスタント食品でいっぱいだった女性たちが、料理の腕を上げるにとどまらず、人生にも意味を見出していく様子を描いたこのノンフィクション作品は日本語訳され、多くの日本人女性の共感を呼んだ。しかしフリンさんは、こんなにも日本で名を知られるようになるとは想像もしていなかったという。
10月19日、キャピトルヒルにあるアダズ・テクニカル・ブックス&カフェで行われたイベントでフリンさんが登壇。日本語版制作に携わった翻訳者の村井理子さん、編集者の田中里枝さんとのスカイプ通話を交え、日本における同書の人気の経緯を語った。今年の初め、自身のフェイスブックに何百人もの日本人から友だち申請が届いたと思ったら、数カ月後には著書が日本でベストセラーになったそう。今では3万部が刷られており、ミュージカル化やテレビドラマ化の話まで出ているほどだ。爆発的な人気を通し、フリンさんは日本文化を肌で感じた。
料理にコンプレックスを持つ女性が多いのは日本も同じ
今夏、テレビ番組への出演や読者との交流イベントで日本を訪れたフリンさん。この経験から、「日本について何も知らないまま書いた本でしたが、いかに日本の人々に影響を与えたか実感しました」と、話す。ファンからプレゼントを受け取ると、「アメリカでは読者からプレゼントをもらったこ となんてないのに!」と、驚きを隠せなかった。
フリンさんは、本のデザインにおける米国と日本の違いについても述べた。日本語版では、あらゆる登場人物の説明があり、あらすじがあり、文中に挿絵がある。「ほかにもたくさ んあるけれど、いちばんの違いはタイトル。『ダメ女たちの人生を変えた奇跡の料理教室』(原題:The Kitchen Counter Cooking School)ですからね!」
再び、村井さん、田中さんとタッグを組み、日本のマーケットに向けた本の執筆を計画しているフリンさんは、数カ月間、日本に滞在する予定もある。最初は日本になじみが薄かったが、1年も経たぬうちにすっかり親日家となった。
◀ダメ女たちの人生を変えた奇跡の料理教室(きこ書房):The Kitchen Counter Cooking School
パリでの料理修行からシアトルに帰国した著者は、子連れの女性がスーパーで加工食品をカートに積み上げている光景に衝撃を受ける。「料理のことなんて誰も教えてくれなかった」とこぼすその女性の言葉が、著者の料理魂に火をつけた。料理が苦手な女性10人を集め、料理プロジェクトを企画し、その始終をつづった本書。参加者が料理の腕を上げる一方で、食品廃棄や添加物などの食に関わる社会問 題も扱った新しい視点が評価され、米国ASJA(American Society of Journalists and Authors)ベス ト・ノンフィクション賞を受賞した。
キャスリーン・フリン■Kathleen Flinn 勤めていた新聞社を解雇さ れたことを機に、貯金をはたき、パリの名門料理学校であるル・コルドン・ ブルーに入学。卒業後はフードジャーナリストとして、執筆活動にも従事。その時の経験を記した『36歳、名門料理学校に飛び込む!-リストラされた彼女の決断』(柏書房)の原書『The Sharper Your Knife, the Less You Cry』は米国でベストセラーとなった。シアトルでは自身の料理経験を生かしたプロジェクトを始動するなど、活動領域を広げている。公式サイト