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ソングズ・オブ・ホープ〜コミュニティーを巻き込んで歌の力を届ける

声楽家の田形ふみさん、キルシュ絵梨子さんらが中心となり、被災地支援コンサートを開催する「ソングズ・オブ・ホープ」。イベントごとに公募される一般参加者と、地元のアマチュア合唱団による合同合唱団で、過去イベントに参加した人数は、延べ1,000人を超える。「なでしこベーカリー」によるベークセール、子ども合唱団ほか、福島の非営利団体「いわき放射能市民測定室たらちね(以下たらちね)」との協働プロジェクトなど、活動の幅は広がっている。

–ソングズ・オブ・ホープの活動について教えてください。

有志3人で開催した被災地のためのベネフィット・コンサートが始まりでした。初回は2011年5月1日、シアトル・シンフォニのーメンバーからユースによる弦楽アンサンブルまで、各方面からミュージシャンが集ったコンサートでしたが、地元の合唱団であるサウンド・シンガーズが裏方を手伝ってくれることになり、音楽活動をしていない人もベークセールを行うなど、たくさんの方の協力が得られました。和楽器も含むバラエティー豊かなプログラムは観客を魅了。この成功により、まずは5年を目標に支援活動を続けることにしました。

合唱団の結成は、活動1周年の時。プロミュージシャン主体のコンサートではなく、プロアマ問わず大勢の合唱の声を届けることで、より被災地への思いを伝えたい、そして歌う人も聴く人も心が癒される場にできるのではと考えました。エコーコーラスやエバーグリーン・グリー・クラブといった地元合唱団も一緒になり、120人ほどが集まりました。

–コンサートは、どのような内容ですか。

ジャパンフェアジャパンウィーク(日本祭り)、ミュージカル・ブリッジ・コンサートなど、地域のイベントに呼ばれて行くこともありますが、主な活動は毎年3月に自主開催する支援イベントです。5周年コンサートの時は地元の日本語教育機関にも声をかけ、大人130人、子ども120人の総勢250人もの大合唱団ができました。中には3世代で参加するファミリーも。合唱参加者がお互いにつながり、新たな合唱コミュニティーが形成されたのはうれしかったですね。その際、子どもたちに日本語の合唱の機会をもっと作って欲しいとのリクエストがあり、子どものための合唱団を作るきっかけになりました。子ども合唱団は3年後の2019年にスタート。コミュニティーに貢献できるのは、とても幸せなことです。

2018年開催のなでしこサロンにて

2017年と2019年にはシアトル合唱祭、2018年にはベークセール・グループのなでしこベーカリーによる「なでしこサロン」を開催。なでしこサロンでは、アフターヌーンティー風に手作りのお菓子を用意し、ライブ音楽を提供しました。食べるにも、聴くにも、ボリュームたっぷりのプログラムは大盛況でした。シアトル合唱祭となでしこサロンは交互に隔年開催していますが、昨年からコロナ禍で全てオンラインに。今年は震災から10年という節目でしたので、メモリアル・コンサートを配信しました。今後はパンデミックが落ち着き次第、また交互に実施していく予定です。

–「たらちね」との協働プロジェクトは、どのように行われていますか。

当初は東北という大きなくくりでチャリティー活動をしていましたが、原発事故により日常的な低線量被ばくの可能性が高い福島に暮らす子どもたちのためにできることを探そうとシフトしていきました。偶然、知り合いを通じて福島の非営利団体、たらちねとつながり、2016年の5周年コンサート以降は、たらちねと協働をして募金活動や学習会、YouTubeでの日英2カ国語による情報発信などを行っています。

今年の10周年コンサートでは、合唱曲「群青」を再演しましたが、この曲とは5年前に出合いました。保養キャンプで福島の子どもたちが歌っている動画を見て知り、深く感銘を受け、詳しく調べたところ、福島県南相馬市の音楽の先生が子どもたちの言葉を集めて作った曲とわかりました。「これはソングズ・オブ・ホープでも歌わなくては」と、5周年コンサートで発表しました。その「群青」を、今回は弦楽オーケストラ版で披露。歌詞の元になった10年前の中学生たちの思いを、今回参加してくれた10代の弦楽奏者たちが演奏する姿に、時を超えたリレーのようなつながりを感じています。合唱はソングズ・オブ・ホープ71人が参加しました。

–新型コロナウイルスの影響はありましたか。

リモート合唱といって、自分の声を各自録音してもらい、集めて合唱に編集しています。厳密に言えば合唱ではなくソロですが、3月12日のメモリアル・コンサートに向けてZoomでの合同練習日を設け、一緒に歌っている実感を少しでも持てるようにしました。また、昨年7月と今年1月には地元合唱団と集まり、オンライン合唱祭を楽しみました。昨年9月に開催した最初のオンライン・イベント「リコネクション」では、アメリカや日本以外の人も参加したリモート合唱が実現。この10周年にはドイツやインド、韓国など、さらに広がりを見せています。

ソングズ・オブ・ホープの合唱をきっかけに歌う楽しさに目覚め、地元の合唱団に入った人も少なくありません。合唱のとりこになって抜け出せなくなるので別名、「合唱アリジゴク」と呼ばれます(笑)。音楽とは共感する力。同じ空間や時間をシェアすれば感情のつながりも強くなります。オンラインではどうしても、そのつながりや臨場感が足りません。特に子どものリハーサルではライブ感が大切です。タイムラグができるZoomでは同時に演奏することはできませんが、家族単位でリズム・アンサンブルに挑戦してもらっています。このアクティビティーを気に入り、新しいアレンジを披露してくれたファミリーもいました。うれしいことです。今はチャレンジの時ですが、工夫しながらいろんなアイデアを試しています。

田形ふみ■東京藝術大学卒業後、ワシントン大学に留学。声楽家としてリサイタル出演、合唱指導などさまざまな活動をする中、マリナーズ開会式でのアメリカ国歌斉唱も経験。東日本大震災を機にソングズ・オブ・ホープを立ち上げ、音楽を通して東北支援の輪を広げている。
https://songsofhope.info

キルシュ絵梨子■武蔵野音楽大学では声楽を専攻し、パーカッション・アンサンブルとリズム・ムーブメントも学ぶ。2008年にエコーコーラスの指揮者に就任。以降、ソングズ・オブ・ホープなどでも活動。2019年からはソングズ・オブ・ホープ子ども合唱団の指導も行う。
www.facebook.com/sohkidschoir/

Songs of Hope 10周年メモリアル・コンサート
「あの日生まれた出会いから10年」

宮城県石巻市で英語教師をしていたテイラーさんも震災で犠牲に両親は設立した基金を通して書籍の寄付など現在も石巻支援を続けている

ソングズ・オブ・ホープによる10周年メモリアル・コンサートが3月12日、YouTubeでライブ配信され、終了後もその一部始終を動画で見られる(www.youtube.com/channel/UCFV1CeHw2GQJCpghFJdh0lQ)。翌日には1,300を超える観覧数を記録した。コンサートはバイオリニストのロサノ茉理枝さんによる演奏で幕を開け、弦楽・ピアノ演奏によるリモート合唱「群青」の歌で締めくくられた。

最後は弦楽オーケストラ版群青での大合唱離れていても音楽を通して想いはひとつに

支援活動をきっかけに出会いが始まった、国や文化を超える人々の交流も紹介。楽曲の間に、復興した宮城県松島町の様子や、震災の津波で亡くなった唯一のアメリカ人、テイラー・アンダーソンさんの父親であるアンディーさんからのメッセージが届けられた。ビデオ参加した子どもたちによる元気いっぱいの「アンパンマンたいそう」も。そのダンス映像からは、ソングズ・オブ・ホープのメッセージである、次の世代に託す「希望」が感じられた。