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シアトル敬老跡にホームレス・シェルター 日系コミュニティーの声は

シアトル敬老跡に今も残る敬老ガーデン2018年撮影いったん集合住宅建設の計画が持ち上がったが取りやめになりその後ACLTがシアトル市による資金援助を受けて購入に至った

惜しまれつつ2019年に閉業した敬老リハビリテーション・ケア・センター(以下シアトル敬老)の建物が、10月からホームレス・シェルターとして利用されるとの発表がありました。同プロジェクトを取り巻く状況について取材しました。

取材・文:室橋美佐、デイビット・ヤマグチ

9月17日、23日、30日、シアトル敬老跡にできるホームレス・シェルターに関するコミュニティー・ヒアリング会議が、オンラインで開催された。シアトル市とアフリカタウン・コミュニティー・ランド・トラスト(ACLT)から日系団体関係者へ会議の案内が届いたのは、今年9月半ばのことだ。案内には、ACLTのプログラムにより、ホームレスとなったアフリカ系アメリカ人の成人男性たちへ住居および教育や雇用の機会を生む安全なスペースが提供されること、24時間無休の運営で施設内のセキュリティー管理は万全であること、メンタルヘルス・サービスや雇用サポートなどが実施されることなどの説明も添えられていた。

シアトル市は、7月29日時点のプレスリリースで、ACLTがシアトル敬老跡の建物を利用して125室のシェルターをオープンする旨を発表していた。しかし、そのプレスリリースは市内でのホームレス・シェルター増設に焦点が当てられ、ほかにもさまざまな内容が混在していたこともあり、日系・アジア系メディアで大きく取り上げられることなく埋もれた形となった。かつてシアトル敬老を運営していた非営利高齢者ケア団体の敬老ノースウェスト関係者を始めとする日系アメリカ人や近隣のコミュニティーでは、この案内で初めて目にする突然の知らせに驚きの声が上がった。敬老ノースウェスト創設メンバーのひとりである本誌発行人のトミオ・モリグチはシアトル市に対し、日系・アジア系コミュニティーへの事前の情報開示やヒアリングが十分に行われていなかったとして、20世紀初頭から日系・アジア系コミュニティーの中心になっている地区であることへの理解、川部メモリアルハウスやシアトル別院仏教会が運営に関わるウェステリアなど、高齢者施設居住者を含む近隣住民への治安上の考慮を求める要望書を提出した。

3回にわたって開かれたコミュニティー・ヒアリング会議では、ホームレス・シェルター運営の成功に向け、それぞれの立場から意見が出された。シアトル市内のホームレス問題の解決は、日系・アジア系コミュニティーでも共通の課題であることは確かだ。実際、シアトル敬老跡周辺でも公園にホームレスのテント村ができ、路上にはホームレスのキャンピングカーも見られる。会議に参加した近隣住民からは、薬物使用後の注射針や違法薬物の売買がしばしば目撃されていることなどが指摘されたが、ACLTは、ホームレスの人たちをシェルターに収容することで公園や歩道の治安が維持できる点を強調した。ウェステリア居住者から、シアトル敬老の閉鎖以降手入れがされていなかった敬老ガーデンの清掃・整備ボランティアの申し出もあった。

敬老ノースウェストは1975年にその前身が誕生し、その中核を担ったシアトル敬老は日系を含む幅広いアジア系高齢者を受け入れ、まさに日系文化の「思いやり」を体現したような場だった。今度はシアトル市のホームレス問題を解決に導く新しいレジェンドとなるか。さらなる議論と取り組みが始まっている。

ハイテク関連企業の国際マーケティング職を経て2005年からシアトル在住。2016年にワシントン大学都市計画修士を取得し、2017年から2022年まで北米報知社ゼネラル・マネジャー兼北米報知編集長を務めた。シアトルの都市問題や日系・アジア系アメリカ人コミュニティーの話題を中心に執筆。