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ジブリ作品と歌 中編〜晴歌雨聴 ~ニッポンの歌をさがして 第45回

晴歌雨聴 ~ニッポンの歌をさがして

日本のポピュラーカルチャー、特に1960-70年代の音楽について研究する坂元小夜さんが、日本歌謡曲の世界を案内します。

ジブリ作品と歌 中編

引き続き、スタジオジブリ作品のテーマソングについて。前編では1984年の「風の谷のナウシカ」から1989年の「魔女の宅急便」までの5作品が次々と発表された80年代にフォーカスしました。その時代にジブリの世界観が築き上げられたかのようにも見えますが、90年代に入るとさらに奥行きを持って広がっていきます。

1991年の「おもひでぽろぽろ」は、「ふるさと」と「思い出」がテーマ。演歌歌手の都はるみがその主題歌、「愛は花、君はその種子」を歌いました。アメリカの歌手、ベット·ミドラーの名曲「ローズ」に、監督の高畑 勲が訳詞を付けたものです。この曲、歌詞が素晴らしいんです。バラの花と聞いて、その種から育つ様子をなかなか想像しないですよね。きれいに咲き誇った花の状態で思い起こすことが多いと思います。種から手塩にかけて丁寧に愛情を込めて育てるからこそ咲く、だから花は愛だという内容です。都はるみの歌唱力は言うまでもないですが、哀愁感と懐の深さが伝わってくる感動的な1曲です。

1992年の「紅の豚」の主題歌には、シンガーソングライターの加藤登紀子が起用されました。「さくらんぼの実る頃」はフランスのシャンソンの日本語版。都はるみと言い、実力のある女性歌手が続きます。海外の楽曲の日本語版というスタイルは1995年の「耳をすませば」の主題歌、「カントリー·ロード」にも見られます。オリジナルはアメリカの歌手、ジョン·デンバーがギターの弾き語りで歌う、アメリカ人なら誰もが知る有名曲。ジブリのバージョンは歌詞が違い、「旅立ち」がテーマとなっています。主人公の雫の声を担当した本名陽子が透き通る声で歌い上げ、全く違う世界を見せてくれます。

主題歌に海外の楽曲をアレンジして採用するパターンはいったん終わり、1997年の「もののけ姫」では、主題歌としてオリジナルの楽曲が制作されました。歌うのは、クラシック歌手の米良美一。歌詞は宮崎 駿、作曲は久石 譲の黄金コンビです。「自然と人間」という壮大なテーマを、米良が中性的かつ神秘的な歌声で見事に表現しています。

2001年の「千と千尋の神隠し」の主題歌「いつも何度でも」は、歌手の木村 弓が作曲し、歌唱も担当。この曲も映画も、私の大好きなジブリ作品のひとつです。夢の世界のモデルになったと言われる台湾の九份にも行ってみました。現実と夢の世界を行き来する少女というのは、「となりのトトロ」などにも見られるジブリの定番テーマですね。この曲を歌った木村は、ライアーと呼ばれる竪琴を使った弾き語り演奏で知られます。「いつも何度でも」の伴奏にも、この竪琴の優しい音色を聴くことができます。次回、後編に続きます。

横浜生まれ東京育ち。大学院進学のために2015年に渡米。2020年よりロサンゼルス在住。南カリフォルニア大学大学院の博士課程にて日本の戦後ポピュラー文化を研究。歌謡曲と任侠映画をこよなく愛する。