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スマホ・ゲーム依存とメンタルヘルス ~「使われる側」ではなく「使う側」になるためには~子どもとティーンのこころ育て

子どもとティーンのこころ育て

アメリカで直面しやすい子どもとティーンの「心の問題」を心理カウンセラー(MA, MHP, LMHC)の長野弘子先生(About – Lifeful Counseling)が、最新の学術データや心理療法を紹介しながら解決へと導きます。

スマホ・ゲーム依存とメンタルヘルス
~「使われる側」ではなく
「使う側」になるためには~

「子どもがスマホを手放さない」「ゲーム時間を制限しようとすると激しく反発される」。こうした悩みは、今や多くの家庭にとって身近なものになりました。かつては「遊び」の一つに過ぎなかったビデオゲームやスマホですが、今やそれは子どもたちの脳やメンタルヘルス、さらには家族関係にまで影響を及ぼす「環境」へと変化しています。今回は、多くの子育て家庭が直面しているこの現代の課題にどう向き合うべきかを考えていきましょう。

WHO(世界保健機関)が2018年に「ゲーム障害(Gaming Disorder)」を正式な精神疾患として認定してから8年が経ち、依存に関する研究は飛躍的に進んでいます。日本では国立病院機構久里浜医療センターが2025年に実施した調査で、10歳から29歳の14.5%にネット依存、10.3%にゲーム依存の疑いがあると報告され、事態の深刻さが浮き彫りになっています。アメリカでもコモン・センス・メディアの調査で、8歳から18歳の子どもの娯楽目的のスクリーン時間は平均8時間40分に達していることが示されています。

脳をハックする「報酬系」の罠

なぜ、これほどまでに子どもたちはデバイスに吸い寄せられるのでしょうか。それは、デジタルコンテンツが脳の「報酬系」と呼ばれるしくみを強力に刺激するように設計されているからです。ゲームで勝利した瞬間、SNSで「いいね」をもらった瞬間、脳内では報酬回路を刺激するドーパミンが分泌されます。発達途中の子どもの脳はこの刺激に極めて弱く、感情を制御する前頭前野は20代半ばまで発達が続くとされています。つまり、強力なアクセルに対しブレーキが未熟な状態なのです。

その結果、睡眠障害、情緒不安定、集中力低下、社会的孤立などにつながることがあります。特に近年問題視されているのは、「現実世界の刺激では満足できなくなる」ことです。短時間で強い刺激を得られるデジタル空間に慣れるほど、読書や会話、自然遊びのようなゆっくりした刺激が物足りなくなっていきます。

しかし、この問題は子どもだけに限りません。実は今、大人たちの間でも似た現象が急速に広がっています。近年よく使われる言葉に「AI疲労(AI Fatigue)」や「エージェント型AIフィーバー(Agentic Fever)」があります。AI関連のツールや機能が次々に登場し、仕事も生活も効率化される一方で、人間の脳は常に通知、比較、選択、判断を迫られています。昔と比べ、現代人が1日に処理する情報量は桁違いに増え、大人ですら脳を休ませることが難しくなっています。特にAI時代では、「もっと効率化しなければ」「AIを使いこなさなければ取り残されるのではないか」といった焦りが生まれ、脳が常に興奮状態に置かれています。

これは子どものゲーム依存と非常によく似ています。脳は刺激に慣れるほど、静かな時間に耐えられなくなります。スマホを触っていないと不安になり、何もしない時間に焦燥感を覚える。大人たち自身も、すでに「デジタル依存社会」の中にいるのです。だからこそ必要なのは、単なる制限ではなく、「脳を落ち着かせる訓練」です。これは子どもにも大人にも共通しています。

「家族メディアプラン」のすすめ

アメリカ小児科学会(AAP)は、家庭ごとに「家族メディアプラン」を作ることを推奨しています。単なる時間制限ではなく、食事中は使わない、寝室に持ち込まない、夜は通知を切るなど、生活の中に脳を休ませる時間を意識的に組み込むことが重要です。さらに重要なのは、親自身の行動です。子どもは親の言葉より行動を見ています。親が常にスマホを見ていれば、子どもにだけ制限を求めても説得力はありません。

現代社会では、脳を静かに保つこと自体が習得すべき技術になりました。散歩、運動、読書、料理、自然に触れること、会話、ぼんやりする時間。こうした低刺激の時間を取り戻さなければ、人間の脳は刺激を求め続けて疲弊していきます。AIやスマホなどのデジタルツールに「使われる側」ではなく「使う側」になるためには、情報から離れる勇気と静かな時間を意識的に作っていくことが不可欠でしょう。


参考文献

長野 弘子
ワシントン州認定メンタルヘルス・カウンセラー(認定ID:LH60996161)。ニューヨークと東京をベースに、ジャーナリストとして多数の記事を寄稿。東日本大震災をきっかけに2011年にシアトルへ移住し、災害や事故などでトラウマを抱える人々をサポートするためノースウエスト大学院で臨床心理学を専攻。米大手セラピー・エージェンシーで5年間働いた後に独立。現在、マイクロソフト本社の常駐セラピストを務める。hiroko@lifefulcounseling.com