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民謡クルセイダーズ〜晴歌雨聴 ~ニッポンの歌をさがして Vol.32

晴歌雨聴 ~ニッポンの歌をさがして

日本のポピュラーカルチャー、特に1960-70年代の音楽について研究する坂元小夜さんが、日本歌謡曲の世界を案内します。

第32回 民謡クルセイダーズ

前回、ザ・フォーク・クルセダーズの「イムジン河」について書きました。「Crusaders(クルセダーズ、クルセイダーズ)」には、十字軍戦士、改革運動者という意味があります。ザ・フォーク・クルセダーズの名に、「フォーク・ミュージックで新しい境地を切り開く」という意気込みを感じます。1960 年代初めに登場し、さまざまなジャンルの音楽的要素を取り込んで革新的だったアメリカのフュージョン・バンド、ジャズ・クルセイダーズから命名したとか。ザ・フォーク・クルセダーズも、音楽のジャンルを問わず「世界中の民謡を紹介する」という画期的なコンセプトの下に誕生しました。

そして、日本の民謡と世界の音楽の融合を目指すバンドが、民謡クルセイダーズです。東京都福生市在住のギタリストである田中克海と、民謡歌手のフレディ塚本が酒場で意気投合し、2011年に結成されたそう。その歌唱法こそ日本の民謡スタイルですが、リズムやビートはラテン・アメリカ、カリブ、アフリカ、アジアから取り入れており、10 種類の異なる楽器編成もユニークです。民謡など日本の伝統的な歌謡芸能は手拍子とは切っても切れないもの。パーカッションありきのリズム・ミュージックとの相性が良いのは納得がいきます。

ただ、こうして書いたところで、やはり実際にパフォーマンスを観ないことには、民謡クルセイダーズ独自の音楽性を知るのは難しいでしょう。彼らの音楽は世界でも注目の的で、2021年にはニューヨークで毎年1月に開催される音楽祭「グローバルフェスト」に招待され、集まった観衆を魅了しました。その際に収録されたコンサート映像は、YouTubeで見ることができます。民謡クルセイダーズによる全く新しい串本節や炭坑節が繰り広げられています。

民謡クルセイダーズの国外での知名度をグンと上げたのが、アメリカの公共ラジオ放送であるNPRの音楽番組から生まれたビデオ・シリーズ、「タイニーデスク・コンサート」です。これはNPRのオフィス内で行われるライブ・パフォーマンスをビデオ収録したもので、2008年の開始以来、世界中で人気を集めています。日本人アーティストが紹介された例はまだ少なく、コーネリアスやガールズバンドのCHAIなど片手で数えられるほどです。

ある人文学者が、伝統芸術を生かし続けるには、観衆が変化していくことだと説いています。伝統が神聖化され過ぎると、その新しい解釈や翻案は時に批判されてしまいます。民謡クルセイダーズの場合はどうでしょうか? 試されているのは観衆である私たちかもしれませんね。

横浜生まれ東京育ち。大学院進学のために2015年に渡米。2020年よりロサンゼルス在住。南カリフォルニア大学大学院の博士課程にて日本の戦後ポピュラー文化を研究。歌謡曲と任侠映画をこよなく愛する。