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自分を大切にする「オーセンティシティ(Authenticity)」とは ~育児ストレスの軽減方法~

子どもとティーンのこころ育て

アメリカで直面しやすい子どもとティーンの「心の問題」を心理カウンセラー(MA, MHP, LMHC)の長野弘子先生(About – Lifeful Counseling)が、最新の学術データや心理療法を紹介しながら解決へと導きます。

自分を大切にする「オーセンティシティ(Authenticity)」とは
~育児ストレスの軽減方法~

子どもの健やかな成長において、親のメンタルヘルスが重要な役割を果たすことが近年明らかになっています。かつては、子どものために我慢するのが良い親と考えられていたこともありました。しかし現在は、親自身が心身の健康を保ち、自分らしく生きることが、結果として子どもの発達にも良い影響を与えると考えられています。

そこで注目されているのが、心理学の概念である「オーセンティシティ(Authenticity)」です。日本語では「本来の自分」や「自分らしさ」などと訳されますが、わがままに好き勝手に振る舞うことではありません。「自分の価値観や正直な気持ちを理解し、それに従って行動すること」を意味します。例えば、「毎日ちゃんと料理しなくちゃ」「親なら常にしっかりすべき」といった社会規範に縛られ、自分を追い込んでしまうことがあります。しかし、自分の心が「やりたくない」と言っているのであれば、まずはそれを認めてあげること。大切なのは理想の親を演じることではなく、自分の価値観や家庭の状況に合った子育てをすることです。

研究では、自分らしく生きていると感じている人ほど幸福感が高く、不安や抑うつが少ない、さらに人間関係の満足度も高いことが分かっています。これは子育てにも当てはまります。親が無理をして理想像を追い続けるよりも、自分らしさを保ちながら育児に向き合う方が、親子共に心の健康を守りやすくなるのです。

子育てに関する近年の研究では、「習い事の数」や「教育費」だけでなく、親子関係の質が子どもの長期的な成長と深く関係していることが示されています。特に重要なのは、「温かさや愛情を示すこと」「子どもの話を聞くこと」「適切なルールや境界線を保つこと」です。つまり、完璧な親になることではなく、安心できる親子関係を築くことが重要なのです。

子どもが安心してすくすく育つためには、親が無理をしすぎず、「ほどよい親(Good Enough Parent)」でいることです。「しっかり」「ちゃんと」しなくちゃという考えにとらわれるほど、親子ともにストレスがたまってしまいます。実は、ストレスは出来事そのものよりも、ものの見方によって大きく左右されます。例えば、子どもにイライラして怒鳴ったあと、「また怒ってしまった。私はダメな親だ」と考えると、さらに嫌な気分になってしまいます。そんな時は、「毎日完璧でなくても、愛情と安心感を提供できていれば、子どもは十分に成長できる」と自分に伝えてあげましょう。

また、「子育てで忙しくて時間がない」という考えも、「本当にそう?」と見直さなければ強まる一方で、ストレスもさらにたまっていきます。確かに乳幼児期の子育ては非常に忙しく、親の自由時間は大きく減少します。しかし、「まとまった時間がなくても休むことは可能」と考えてみるとどうでしょうか。コーヒーをゆっくり飲む、好きな音楽を聴く、短い散歩をする、寝る前のストレッチなど、ほんの数分でも脳と心は回復します。「忙しくて時間がない」という考えから、「短い時間を活用できている私って素敵」と発想を変えるだけで、気持ちは大きく変わります。

ストレスは状況をどう解釈するかで大きく変化します。自分の感情や疲れを無視せずに、疲れた日は休む。助けが必要なときは頼る。完璧を求めすぎない。それは決してわがままではなく、自分を尊重して感情をためないようにするスキルなのです。こうして自分の機嫌を自分で取れるようになれば、自分を優先しすぎることもなく、家族も大切にできる無理のない関係を築いていけるでしょう。

人間は本来「しっかり者」ではなく「うっかり者」なんだと前提を変え、「こうあるべき」という固定観念より、「私はどんな親でいたい?」というワクワク感を大切にしてみてください。子育ては短距離走ではなく、長距離マラソン。自分らしく、無理をし過ぎず、必要なときには休む。そんな親の姿こそが、子どもにとって安心できる居場所となり、「自分らしく」生きていいんだという将来の自信や心の安定につながっていくでしょう。


参考文献

長野 弘子
ワシントン州認定メンタルヘルスカウンセラー(認定ID:LH60996161)。ニューヨークと東京をベースに、ジャーナリストとして多数の記事を寄稿。東日本大震災をきっかけに2011年にシアトルへ移住し、災害や事故などでトラウマを抱える人々をサポートするためノースウエスト大学院で臨床心理学を専攻。米大手セラピー・エージェンシーで5年間働いた後に独立。現在、マイクロソフト本社の常駐セラピストを務める。hiroko@lifefulcounseling.com