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油虫〜みきこのシリメツ、ハタメーワク

第43回 油虫

沖縄県名護市に引っ越して半年ほどになる。気候がよいし、アメリカに45年住んだ身にとって、日本人は優しい。特に高齢者に対してゆっくり説明してくれ、バカにされないのである。その上、沖縄では懐かしの「昭和」を感じるのだ。最近の若い人は、特に東京などではアメリカナイズしていて個人主義である。沖縄はまだ、おじい、おばあの影響が濃いのかもしれない。道ですれ違う人はちょっと会釈をする。先週はアパートの階段で、制服を着た知らない中学生男子に挨拶をされた。

私が育った昭和20年代後半から30年代の東京の下町では、ちょっと悪さをすると近所のおばさんが出てきて怒られる。少しひどいとおじさんが出てきて、ゲンコツを食らう。町中で子どもたちを育ててくれていた。人間に温かさがあり、他人を見てくれる余裕なんだろうな。

沖縄での「昭和感」はちょっと違っている。街路樹の根元は雑草ぼうぼうだが、アメリカや東京のように、除草剤や毒をまいたりしていない。土から生まれ出て来た自然のものを、そんなに簡単に人間が制覇してしまっていいのだろうか? もっと自然を大切に、敬意を払っている感じがするのである。

建物は少し古いところもあり、懐かしい。シャッターはサビてはいるが、グラフィティは見当たらない。横道に入っても小さな魚屋さんや、居酒屋、食堂があって、ちょっと話し込んだりしてしまう。

先日はお風呂の排水溝のチェックに来たおじさんに、
「こないだ油虫が出たんですよ。こんな大きな、羽が光ってて」と、2インチほどに指を広げてみた。
「ああ、油虫ね」と分かってくれたのだ! 最近はゴキブリと言う。

ゴキブリには特別な憎しみの情があって「油虫」なのだ。3歳ごろおたふく風邪でおやつを食べていた時、いきなり飛んできた油虫が私の頬にとまったのだ。その場にいた皆が大騒ぎして退治してくれた。小さかったからあまり覚えてはいないが、成長して引っ越した家で朝シャンをしている時に、天井から何かが落ちてきて、私の鼻先にとまろうともがいたのだ。髪の毛を洗っていたため見えなかったから手でつかみ、何よ! と投げて床を見た時の驚き、恐怖、腹立ちは今でもよみがえってくる。1.5インチ強の大きな油虫。足には毛が生えているではないか。つぶすのは気持ち悪いので、お湯とシャンプーで窒息死させてしまった。

「昭和感」、良いことも悪いことも含めて歳を感じる。

天海 幹子
東京都出身。2000年から2005年まで姉妹紙『北米報知』ゼネラル・マネジャー兼編集長。「静かな戦士たち」、「太平洋(うみ)を渡って」などの連載を執筆。2020年11月に日本に帰国。同年、著書『ゼッケン67番のGちゃん』を刊行。