今年のサンダンス映画祭でプレミア上映され、観客の人気を集めたインディーズの作品。ノリの良いヒップホップの楽曲にのせて、ロス郊外イングルウッドの犯罪多発地区で暮らすアフリカ系の高校生が巻き起こす事件をユーモアたっぷりに見せる出色のコメディ作品だった。 バス運転手のシングルマザーと暮らすマルコム(シャメイク・ムーア)はハーバードを目指す高校生。オール A の成績を自慢するうぬぼれ屋でかなりなオタク、学校ではいじめっ子の標的だ。そんな彼とつるむ気弱なジブ(トニー・レヴォロリ)と、鼻っ柱の強いレスビアンのディギー( キーアージー・クレモンズ)の 3 人はパンクバンドを組んでいた。 たまたま行ったパーティで銃撃戦が始まり、近所にウヨウヨいる麻薬ディラーの 1人ドム(エイサップ・ロッキー)の扱う麻薬をある重要人物に届ける羽目になるが、その男から受け取りを拒否されて愕然。しかし、頭の良いマルコムたちは、金の経路が掴めないビットコインを使ってネットで麻薬を売ることを思いつき……というお話。 成績優秀でもハーバードなどには絶対行けないと教師から釘を刺されたマルコムだが、ぜんぜん負けていない。窮地をチャンスに変えようと奮闘する彼とダチ公たちの関係が気持ち良く、物語もテンポよく動いて軽快だ。 貧しいアフリカ系高校生のステレオタイプを打ち壊す型破りなキャラクターばかりで、マルコムは 90 年代のヒップホップ音楽とファッションにハマっているし、彼らを助ける白人ハッカーが親しみを込めて「niggas」と言うとディギーから平手打ちが飛ぶし、ディーラーが集まれば戦争とオバマ政権への不満タラタラ、などディテールに新鮮な時代性が反映されて楽しいことこの上ない。エンディグではしっかり作り手のメッセージも伝わってきた。 脚本/監督は 99 年の『T h e Wo o d』でデビューしたリック・ファミュイワ。一貫して独立系、アフリカ系の若者たちの堅い絆で結ばれた友人関係をコメディタッチで描いてきた。本作はその中でも最良の出来栄えではないだろうか。 ナイジェリア出身の一世で、本作の舞台となるイングルウッドで育った。マルコムは監督自身の分身でもあるのだろう。寡作の人だが、作る作品ごとに全米黒人地位向上協会から作品賞にノミネートされてきた。製作者にはアフリカ系シンガー、ファレル・ウィリアムス、ショーン・コムズ、俳優のフォレスト・ウィテカーの名が並び、彼の作家性をしっかり支えている。 上映時間:1時間 43 分。シアトルはシネコン等で上映中。 [新作ムービー]