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米国医療保険制度が歯科治療にもたらす影響

歯科へのアクセスの低化が、医科の救急外来患者の増加につながる
アメリカの医療保険には、高齢者対象のメディケア(Medicare)や低所得者対象のメディケイド(Medicaid)などの公的な保険があるものの、ほとんどの人は、個人あるいは職場を通して民間保険に加入しています。歯科に限定された保険に関しても、大半は民間保険に依存していますが、メディケイドには歯科を含むものがあります。しかし、ここ10年の動向を見てみると、多くの州で、州政府の財政難を理由にメディケイドでの成人歯科治療費の保障を停止した時期がありました(子どもの歯科治療費に関しては維持)。その結果について、最近、興味深い研究報告がいくつか出ましたので、今回は、メディケイドの歯科治療費保障停止(つまり全額自己負担)がもたらした影響について書いていきたいと思います。

アイオワ大学歯学部の研究(Health Affairs; May 2015)
2009年〜2014年の間、カリフォルニア州政府は、州の財政難を理由にメディケイドの成人歯科治療費の保障を停止しました。その結果、州政府は2億4600万ドル(約307億円)の支出を削減できたのですが、その影響は300万人以上に及び、歯科医療へのアクセスを失った人々の、歯科問題が原因による救急外来患者が急増したと報告。
歯科治療保障の停止後
1年当りのメディケイド歯科医療費 2億4600万ドル減
歯科が原因の救急外来訪問数 32%増
救急外来でのコスト上昇率 68%

アメリカ歯科医師会の研究 2014
2008年〜2010年の間に歯科保険を持たない400万人が、歯科が原因で病院の救急外来を訪問し、そのコストは27億ドル(約3370億円)に及んだ。そのうち、101人が死亡に至った。また、その治療のほとんどが処方箋による抗生物質や鎮痛剤のみだった。歯科が原因での救急外来受診の増加傾向は今も続いている。

まとめ
財政難により、多くの州で停止されてきたメディケイドの歯科医療保険ですが、その分、他の医科の支出が増えたり、健康状態の悪化に伴う生産性の低化、生活の質の低化など様々なしわ寄せやマイナスな面が生じている可能性が考えられます。現状では、専門外の緊急外来で適切な歯科治療がなされているとは言えません。昨年あたりから、オバマケアによりメディケイドの歯科医療保険も復活傾向にありますが、申し込んでも州政府から認められないことも少なくありません。今後、救急外来で歯科医が協力できる体制を整え、歯科緊急医療を充実させる必要があるのは、間違いなさそうです。

福井県出身。1985 年、北海道医療大学歯学部卒業。1993年、同大で博士号を取得後、講師に就任。 2003年、ロマリンダ大学歯学部卒業。歯科医勤務を経て2005年、タコマ近郊に開業。2006年10月にサウスセンターモール近くに移転。 パンパシフィック歯科医院 Panpacific Dentistry 411 Strander Blvd. Suite 207, Tukwila, WA 98188 ☎ 253-243-7748