『Miss Hokusai』
(邦題『百日紅~ Miss HOKUSAI ~』)
天才絵師、葛飾北斎をして「余の美人画は、お栄に及ばざるなり、お栄は巧妙に描きて、よく画法にかなえり」と言わしめた彼の三女お栄。絵師として父の代筆をしていた23歳の頃のお栄(杏)が、父(松重豊)と居候善次郎(濱田岳)と暮らす日々を背景に、葛飾一門の自由な気風に憧れる新進絵師、歌川門下の国直(高良健吾)が登場したり、不可思議な幽霊話や色街での一夜などのエピソードを散りばめた江戸情緒豊かな大人向けアニメ作品だ。
太い眉に、自分を俺と呼ぶぶっきらぼうな性格、およそ「娘らしく」ないお栄の、偉大なる絵師である破天荒な父とのデリケートな関係、目の不自由な妹への優しい思いやりなどを丁寧に描きつつ、江戸という時代をキリリと生きた一人の若い女性像が見事に描き出され秀逸だった。
原作は1983年から4年間連載された杉浦日向子の名作漫画『百日紅』で、監督は原恵一。『クレヨンしんちゃん』『河童のクゥと夏休み』などをヒットさせてきた人で、『百日紅』は連載当時から魅了されており、映画化は念願だったようだ。アニメ制作は日本のTVアニメなどを数多く作ってきているProduction I.G、脚本はベテラン丸尾みほだ。
本作を通して、お栄にダブルように見えてきたのが、生みの親である杉浦日向子の存在感。時代考証を専門的に学び、浮世絵からイメージした漫画作品で注目を浴び、漫画以外にもエッセイ、小説など多くの著作を残している江戸文化のエキスパート。江戸時代、女たちはどんな風に着物を着ていたのかを正確に再現した描写など多くの功績がある。05年に46歳で逝ったことが惜しまれてならない。
またこの機会に、父北斎の死後、葛飾応為として画業を続けたお栄の作品にもに触れてみてはどうだろうか。父の言う通り美人画に生き生きとした画才を発揮し、夜の景観『夜桜美人図』『吉原夜景図』など浮世絵としては珍しい光を取り入れた幽玄な傑作がある。
才能豊かな女性作家が再現した女絵師の物語、ジブリ以外にも優れた日本アニメがあることを再確認させてくれた。
上映時間:1時間33分、英語字幕付き。
シアトルはSIFF Cinema Uptownで28日から11月3日まで上映予定。
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