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『かぐや姫の物語』(英題 “The Tale of Princess Kaguya”)

かぐや姫ってどんな女性?

竹取の翁が見つけたタケノコから生まれた女の子が、愛らしい幼児から快活で利発な少女、そして豊かな内面を持つ女性へと成長していく姿を、彼女の心の変遷と共に描くアニメーション。柔らかく温かな色彩と、アニメーターの手の温もりが伝わる生き生きとした線画による画面が美しく、見ていて心地よい作品だ。hires_kaguya_1

監督はアニメ界の名匠高畑勲。スタジオジブリの宮崎駿と共に多くの作品を作ってきた人で、『じゃりン子チエ』や『火垂るの墓』『平成狸合戦ぽんぽこ』などの脚本/監督を担当し、演出家としてアニメ界に大きな影響と業績を残してきた。

本作は『ホーホケキョ となりの山田くん』以来14年ぶりの最新作で、高橋監督の「生涯の最高傑作を」という思いがこもっている。CGを排し、アニメーターの手書き線画を残すスタイルでアニメの原点に戻りつつ、同時にアニメの新しい地平を切り開こうとする力作でもある。人物造形・作画設計は監督自身が選んだ田辺修で、高畑作品であると同時に田辺修作品と呼びたい美的に優れた世界が広がる。作画が素晴らしく、海外で暮らす人や外国人には心にしみ入るアニメではないだろうか。

後半になると画面がラフなスケッチ風に変化し、かぐや姫の激しい感情が映像化される。起伏に富んだ感情を持つかぐや姫その人は、実はどんな女性だったのか。彼女の感情体験をたっぷり描き出そうとした凝った作りだ。反面、ドラマ性は少なく、上映時間の長さがやや冗長に感じられるが、エンディングは圧巻。知恩院の阿弥陀二十五菩薩来迎図を思わせる月からのお迎え場面は豪華絢爛、クラクラとなった。「やはり、かぐやは宇宙人だったのだ」と勝手に納得した筆者ではある。

平安時代初期に書かれたといわれる『竹取物語』は、唐の影響を受けていない日本最古のかなで書かれた物語。紫式部は「物語の出で来はじめの祖(おや)」と書いている。

あっという間に成長する強い生命力を持ち、節ごとに空洞、60~100年に一回花を咲かせるなど、昔の人は竹に不思議な力を感じていたようだ。そんな竹への思いがこの物語を生んだのだろう。古えの人の自由な創造力に今さらながら感服である。

上映時間:2時間17分。シアトルは24日からHarvard Exit Theatre で上映中。

[新作ムービー]

映画ライター。2013年にハワイに移住。映画館が2つしかない田舎暮らしなので、映画はオンライン視聴が多く、ありがたいような、寂しいような心境。写生グループに参加し、うねる波や大きな空と雲、雄大な山をスケッチする日々にハワイの醍醐味を味わっている。