注目の新作ムービー
システマティック・レイシズムについて考える
13th
邦題「13th -憲法修正第13条」
I Am Not Your Negro
邦題「私はあなたのニグロではない」
5月25日に起きた警察官による黒人男性殺害事件を機に大きく広がった人種差別への抗議運動は、今や世界中に広がっている。「ブラック・ライブズ・マター(黒人の命は大切だ)」をスローガンとするこの運動の中で、しばしば耳にする言葉が「システマティック・レイシズム(体系的人種差別)」。私たちはこの意味をどれほど理解しているだろうか。米国に根深く残る人種問題への理解を深めるために、ぜひ観て欲しいドキュメンタリー映画を2作品紹介したい。
「13th(邦題:13th -憲法修正第13条-)」は、「セルマ」を監督したエイヴァ・デュヴァーネイによる2016年の作品。オバマ前大統領の「米国の人口は世界全体の5%に過ぎないが、米国人受刑者は世界全体の受刑者数の25%を占めている」の発言から始まる。その受刑者の多くは黒人で、2009年の収監者に占める黒人の割合は39.4%にも上る。米国人口比12.6%に過ぎない黒人が、なぜこれほど大量に投獄されているのか。本作はその背景にある体系的人種差別について、奴隷解放から現在までを歴史的に追いながら実証していく。現在の監獄の一部は企業によって運営され、受刑者数が増えれば企業がもうかるシステムになっており、受刑者の労働も低賃金で搾取されている。収監経験のある活動家・学者のアンジェラ・ディヴィスはこれを「産獄複合体」と呼び、「新たな奴隷制度である」と長年指摘し続け、本作でも貴重な発言をしている。4月、Netflix が誰もが観られるようにとYouTubeにアップ。無料のうえ、日本語字幕のオプションもある。必見の力作だ。
「I Am Not Your Negro(邦題:私はあなたのニグロではない)」は、作家のジェームズ・ボールドウィンが1979年に書いた未完のメモワール『Remember This House』を下地として、2016年に作られた異色のドキュメンタリーだ。内容はボールドウィンの友人であった公民権運動の活動家、メドガー・エヴァース、マーティン・ルーサー・キング・ジュニア、マルコムXの3人の主張と活動、そして暗殺までを、60年代のアーカイブ映像やTVインタビューなどを通して回想していくもの。パワフルなボールドウィンの言葉で次々と紡ぎ出される友への追憶、人種差別の歴史への鋭い分析を通して、米国という国そのもののあり方に迫っていく。抑えた口調で語るサミュエル・L・ジャクソンのナレーションも秀逸。監督はハイチ出身のラウル・ペックだ。最後にボールドウィンの言葉を引用しよう。
「私はこの国で起こっている道徳的無関心、心の死を恐れている。人々は長い間、自分を欺いてきた。私のことを本当は人間だと思ってはいない。これは彼らの言動ではなく、彼らの行動に基づいている。そして、これは彼ら自身が道徳的なモンスターになったことを意味する」
13th
邦題「13th -憲法修正第13条」
再生時間:1時間40分
写真クレジット:Netflix
YouTubeなどで視聴可。
I Am Not Your Negro
邦題「私はあなたのニグロではない」」
再生時間:1時間33分
写真クレジット:Magnolia Pictures
Amazonなどで配信中。