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ややお下品でコミカルなロードムービー
Drive-Away Dolls
(邦題「ドライブアウェイ・ドールズ」)
「ファーゴ」「ノーカントリー」などで知られるコーエン兄弟は、カンヌ国際映画祭監督賞を3回も受賞した米国を代表する映画人だ。兄のジョエルが監督、弟のイーサンが脚本とクレジット表記されることが多いが、彼らの映画作りは常に共同作業。そんなふたりが2018年に映画製作を休止した。この2月にようやく、ホラー映画を共同監督する予定があることが発表されたばかりだ。ただ、2021年には、ジョエルが単独で監督・脚本を担った「マクベス」が公開。イーサンも単独監督作品を手がけ、その第1作が本作である。兄の「マクベス」とは趣が違うが、筆者の予測を超える仕上がりだった。
舞台は1999年のフィラデルフィア。主人公は親友同士の若いレズビアンふたり、性欲旺盛なジェイミー(マーガレット・クアリー)とコンサバなマリアン(ジェラルディン・ヴィスワナサン)だ。ジェイミーが恋人の警察官、スーキー(ビーニー・フェルドスタイン)を裏切り、アパートから追い出されてしまうところから話が始まる。
ジェイミーは気分転換に旅へ出ようとマリアンを強引に誘い、ふたりはマリアンの叔母がいるフロリダ州タラハシーへ。片道は車の配送サービスを利用したのだが、この車には思わぬブツが積まれていた。それが原因で、ふたりはギャング風の男たち3人に追われることに……というストーリーだ。
長旅の途中、モーテルで読書するマリアンをよそに、ジェイミーはレズビアン・バーの女子をお持ち帰り。マリアンと共に女子サッカー・チームと合流も。充実した性生活を謳歌するジェイミーだが、お堅いマリアンを性的に解放したい思いもあって、ドタバタ旅行が続いていく。
そして、ついに車のトランクに隠されたブツを発見。これがまたエロくて、設定がブレない。とうとう追い付いた悪人たちに拘束されたふたりは、ブツも取り上げられ、さらなる騒動へ。危機を乗り越えていく過程で性欲求に目覚めていくマリアンと、彼女を助けるジェイミーのコミカルな演技が愛らしく、全編にコーエン映画ならではの知的でひねった笑いも散りばめられている。
これまでメジャー映画ではあまり描かれてこなかった、レズビアン・コミュニティーのリアルを作品の真ん中にドンと据えた点が面白い。旅先の町々のレズビアン・バー(現在は全米からほぼ消滅)では、毎夜女たちが盛り上がるが、性をわいせつ感なしに見せる演出に感心した。イーサンの妻、トリシア・クックとの共同脚本。トリシアはコーエン兄弟作品の編集担当であり、レズビアンだ。90年代後半の自身の体験を下地にしているとのこと。トリシアとイーサンは婚姻関係にあるが、それぞれ別にパートナーを持つ異色のカップル。そんなふたりが生み出したユニークな作品を観ていくうち、ふたりの関係についても映画にしてほしい気がした。
カメオ出演で、ペドロ・パスカル、マット・デイモン、マイリー・サイラスなどが顔を出しているのも楽しい。が、映画としては、コントを次々と見ているような感覚に陥り、騒がしさばかりが際立ってしまったのが残念だ。
Drive-Away Dolls
(邦題「ドライブアウェイ・ドールズ」)
写真クレジット:Focus Features
上映時間:1時間24分
シアトル周辺ではシネコンなどで上映中。