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My Octopus Teacher「オクトパスの神秘:海の賢者は語る」

注目の新作ムービー

タコと心の交流をした男性の物語

My Octopus Teacher
(邦題「オクトパスの神秘:海の賢者は語る」)

タコと聞くと何を思うだろうか。まず寿司や刺身、酢ダコなどを思い浮かべる人がいるかもしれない。本作は日本ではもっぱら食用として知られるマダコと心の交流を持った男性の記録映画だ。今年のアカデミー賞ドキュメンタリー映画賞を受賞した秀作で、監督/脚本はピッパ・エアリックとジェームズ・リード。

舞台は南アフリカ、ケープタウンに近い鬱蒼たる藻が繁殖する海である。その目の前に住む記録映画作家のクレイグ・フォスターは、長年の過重な仕事から燃え尽き症候群に陥っていた。何もする気がしない、父として息子に何もしてやれない、そんな自分にいら立つ日々。ふと思い立ち、子どもの頃に慣れ親しんだ海で毎日のようにフリーダイビングを続けるうちに、美しい藻が広がる海の森の海洋生物に興味を引かれ、その生態に触れていく。とりわけ奇妙な行動を取る雌のマダコの姿に夢中になるフォスター。海底で貝殻を体中に散りばめたり、海藻をリボンのように巻き付けて体を隠してみたりと、驚異的な能力、想像以上の賢さを次々に発見し、敬意すら持ち始める。

1年近く経つと、毎日訪ねてくるフォスターをタコが認識し、彼の手に巻き付いてくるほど親しい関係が育っていた。そんな頃、共にダイブする息子と海の素晴らしさを共有するフォスターの心は確実に快方へと向かっていた。

タコは自分を守るために体の色を自在に変化させる軟体動物、ということは知っていたが、人と交流する能力があるとは思わなかった。フォスターがやって来ると、彼の体にまとわりついて喜びを表現する様子にはびっくりだ。フォスターもまた、タコがサメに狙われる様子にハラハラしたり、姿が見えなくなって慌てたりして、友人や家族のように感じていることがわかり、微笑ましかった。

正直、タコを美しいとは思い難いところがあったのだが、最後は優雅に泳ぐタコの姿に見とれている自分がいた。たった18カ月の寿命しかないタコの生涯に、温かい涙が止まらなかった。自然は弱肉強食の厳しい世界であると同時に、誰にでも平等にその恵みを与え、人は自然から生命力を得る。何度も言われ続けてきたことを改めて思い出せてくれた本作は、年齢に関係なく多くの人に推薦したい。

フォスターはこの体験を通して、2012年に「シーチェンジ・トラスト」を仲間と設立。南アフリカの海洋保護区を持続的に保護するため、映画や本、展示会や生物科学による海洋生物学の研究など、活発にキャンペーンを行っている。

My Octopus Teacher
邦題「オクトパスの神秘:海の賢者は語る」

再生時間:1時間25分

写真クレジット:Netflix

Netflixで視聴可能。

土井 ゆみ
映画ライター。2013年にハワイに移住。映画館が2つしかない田舎暮らしなので、映画はオンライン視聴が多く、ありがたいような、寂しいような心境。写生グループに参加し、うねる波や大きな空と雲、雄大な山をスケッチする日々にハワイの醍醐味を味わっている。