タイムリーなポリティカル映画
The Trial of the Chicago 7
邦題「シカゴ7裁判」
米国民にとって1968年は忘れられない年だろう。4月に公民権運動家のキング牧師が暗殺され、6月には大統領予備選挙を戦う民主党有力候補だったロバート・F・ケネディも銃弾に倒れた。当時の米国ではベトナム戦争に向けた徴兵制がしかれ、戦地に送られる学生による反戦運動やブラックパンサー党の活動など社会変革への大きなうねりが広がっていた。
そして8月、大統領候補を選ぶ民主党全国大会が開催されるシカゴに、反戦を叫ぶ学生や市民1万5,000人が結集。学生らの多くが大会会場へと行進を始め、それを阻止しようとする警官隊が警棒を振るい、催涙ガスを発射するなどして争乱状態となった。多くの逮捕者と負傷者が出て、デモの煽動者として8人が謀略・扇動の罪で起訴された。青年国際党(イッピー)の共同創立者であるアビー・ホフマンとジェリー・ルービン、民主主義社会を求める学生連合のトム・ヘイデン、非暴力・平和主義者のデービッド・デリンジャー、反戦活動家のレニー・デイビス、ジョン・フローイネス、リー・ウィンナー、そして後に被告から除外されたブラックパンサー党創立者、ボビー・シールの8人だ。
本作は全米が注目したこの8人の裁判の様子を描いた劇映画で、脚本・監督は「ソーシャル・ネットワーク」などのヒット作が多い脚本家の第一人者、アーロン・ソーキン。司法長官から何がなんでも有罪にせよと指示された検察と、保守的で偏見に満ちたホフマン裁判官(フランク・ランジェラ)らによって、不当にゆがめられた裁判が展開する。迎え撃つ急進派弁護人、ウィリアム・クンスラー(マーク・ライランス)らと独自の信念を持つ被告間の内部論争などを挟みながら、激動する時代の空気を映しつつ娯楽性も備えた見応えのある作品だった
法廷でジョークを飛ばすアビー(サシャ・バロン・コーエン)とジェリー(ジェレミー・ストロング)が、もとよりこの裁判が茶番であると見抜いていたことを始め、「判事の心象を良く」を主張していたトム(エディ・レッドメイン)がキレる一幕や、一貫して事件と無関係だと主張し続けたボビー(ヤーヤ・アブドゥル=マティーン2世)が「自分のような無関係な黒人を被告に入れて事件の凶悪性を強調しようとしている」と指摘する場面、彼の発言を止めようと猿ぐつわをかませ、椅子に縛り付けた姿も再現された。
観終わってみると古い歴史のひとコマというよりも、今年全米を席巻したBLM(ブラック・ライブズ・マター)運動との共通性が見えてくるタイムリーな作品。コロナ時代を反映してNetflixで日本語吹き替え版や字幕付きでストリーミング配信されているので、ポリティカルな映画でも観やすく感じる人も多いのではないだろうか。
The Trial of the Chicago 7
邦題「シカゴ7裁判」
上映時間:2時間10分
写真クレジット: Netflix
Netflixで視聴可能。