紙人形のストップモーション・アニメが秀逸
『The Little Prince』
(邦題『リトルプリンス 星の王子さまと私』)
『星の王子さま』が、少女を主人公にした新たな物語として蘇った。製作はCG・3Dアニメを専門としてきたフランスON Animation Studio。英語版のオリジナルにはベテラン・人気俳優らが声の出演をして、作品に親しみ易さを加えている。
新しい家に引越してきた女の子(マッケンジー・フォイ)は、有名校の受験に備え、教育熱心なシングルママ(レイチェル・マクアダムス)の指導の下、毎日勉強に励んでいた。そんなある日、紙飛行機が飛んできて、紙には小さな王子さまの物語が書かれていた。送ってきたのは、隣人の老人(ジェフ・ブリッジス)。好奇心に駆られた少女は彼の家を訪ね、飛行士である彼がかつてアフリカの砂漠で星の王子(ライリー・オズボーン)と出会った話を聞かされ、魅了される。
原作に登場する砂漠に不時着した飛行士がこの老人であったという設定で、彼を通して『星の王子さま』が語られる趣向。しかも、この部分は紙人形を使ったストップモーション・アニメ(以下SMAと略)として作られ、紙のゴワゴワした質感を活かしたSMAの映像が秀逸だ。ファンタジーに溢れた『星の王子さま』世界にぴったりで、ツルリとした3Dで描かれる少女の現実との対照をなしている。
物語は後半、規則正しかった少女の世界が、ガラクタに囲まれて生きる不思議な老人との出会いを通して変化していく様子を描き、シャンソン歌手カミーユのソフトな歌声が、2人が育む友情に軽ろやさを添えて心地よい。監督は『カンフー・パンダ』のマーク・オズボーン。
『星の王子さま』は1943年に出版されて以来、全世界1億5千万以上の人々に読まれてきたベストセラー。著者は飛行士でもあったアントワーヌ・ド・サン=テグジュペリで、童話というよりファンタジーノベルとして大人の愛読者も多い。
本作は、計画性や成功を重視する現代を舞台に、大切なものは目に見えないという原作のテーマを描こうとした試みで、それはある程度成功しているが、原作の持つ壮大な夢想世界はかすれ、目に見えるものが多くなってしまった。『星の王子さま』はあの本の中で完結している。原作のファンにはやや物足りない感覚が残るかもしれないが、本作を別物と思って見れば楽しめるはずで、マリオン・コティヤールのバラの花や、ベニチオ・デル・トロのヘビなどの声で再訪する『星の王子さま』の世界は悪くはなかった。
上映時間:1時間48分。近日中に劇場公開予定。
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