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悲しみを振り切った女の見たもの『Widows』

Widows(邦題「妻たちの落とし前」)

上映時間:2時間9分
写真クレジット:20th Century Fox
シアトルではシネコンなどで上映中。

凄腕4人組による強盗が失敗し、強盗犯の男たちは全員死亡。しかも、彼らが盗んだ金は地元ギャングのものだった。ギャングは強盗犯の妻、ウィドウ(未亡人)たちに金を返せと迫り、追い込まれた女たちは初めての強盗を企てる。

映画史の中に多くの名作秀作が残る「Heist(強盗)もの」のジャンル映画だ。監督は、「それでも夜は明ける」でアカデミー作品賞を受賞した英国の俊才、スティーブ・マックイーン。つまりは、通り一遍のジャンル映画ではない。

銃など持ったこともない女たちが計画実行する強盗という異色さだけでなく、犯行の背後にワケあり、ひねりあり、時代性も描きこまれた極上エンタテインメントだ。原作は英国刑事ドラマの名作「プライム・サスペクト」を書いたリンダ・ラ・プラント。男社会を生き抜く、賢くしぶとい女を描かせたら彼女の右に出る作家はいないだろう。ドジって命を落とした男たちの後始末から始まる強盗計画の中で、悲しみを振り切った女たちが何を見るのか?

プラントの女性像を象徴するリーダーは、強盗団のボス(リーアム・ニーソン)の妻・ヴェロニカ(ヴィオラ・デイヴィス)だろう。彼女が他のウィドウたちに声をかけ、計画を牽引していく。ギャングに店を荒らされ、やる気になった子持ちのリンダ(ミシェル・ロドリゲス)、美貌のアリス(エリザベス・デビッキ)ははかなげで危うい存在だったが、次第に自分の力を自覚していく。

事件の背後にあるシカゴ地元政治家とギャング兄弟との勢力争いが、計画を二転三転させていく展開もスリリングで、女たちが確信犯へと変貌を遂げていく姿が見ものだ。そして、最後に明かされるヴェロニカの執念の理由。時代性の矢が見事に的を射る感覚があった。

Heistものは歴史が古く、ジャン・ギャバンが渋い強盗を演じた「暗黒街のふたり」や胸のすく強盗技を見せる痛快な「オーシャンズ」シリーズなど多種多様。一攫千金を狙った男たちの夢が仲間の裏切りで頓挫、または難攻不落を落として大金ゲットなど、結末は明暗を分ける。欲望の果てに強盗たちは何を得るのか。失望の苦味か成功の歓喜か、まさに人生そのものを感じさせる不朽のジャンルと言える。本作はそんな歴史の中に必ず残る秀作と確信した。

土井 ゆみ
映画ライター。2013年にハワイに移住。映画館が2つしかない田舎暮らしなので、映画はオンライン視聴が多く、ありがたいような、寂しいような心境。写生グループに参加し、うねる波や大きな空と雲、雄大な山をスケッチする日々にハワイの醍醐味を味わっている。