9月半ば、カナダのホワイトロックから、退職後の本住所に予定していたバンクーバーに引っ越した。友達もできて住み慣れた街を去るのはちょっと悲しかった。それもあって、この街の観光案内キオスクでのボランティア活動は今後も続けることにした。
引っ越し後3週間で、ようやく荷物の箱が全部空になった。19階の新居の広い窓からは、にょきにょき乱立する高層ビルがや、フォールス・クリーク、水上を音もなく走る水上タクシーが見える。バンクーバー国際空港まで直通20分強のスカイトレインの駅はわずか1ブロックに位置し、10年以上帰っていない日本が近くなった気がする。シーウォールプロムナードも数ブロック先。すぐ近くにスーパーマーケットが2軒、5ブロック歩けばHマートもあり、宇和島屋ほどではないものの日本食品は何でも入手できる。各種エスニック・レストランがひしめき、小さな店は値段が安くて嬉しい。日本食店も周囲1ブロック圏内に少なくとも7軒ある。
……と、浮き浮き気分で2週間が経った時、一大事発生! 旅券が見つからないのだ。旅券の中にはカナダ永住カードや米加国境通過便利カード(Nexus)が挟まれている。真っ青になって家中を探したが、他の書類や小銭が2、3個出て来ただけで求める書類は見つからない。どうやらシーツの間に挟んだまま、不要なものをまとめた箱に入れてサルベーション・アーミーに寄付してしまったらしい。
あきらめて関係当局に連絡しようと思ったが、カナダ市民・移民局にはどうしても連絡がつかない。ウェブサイトを見てもたらい回し。ようやく見つけた情報によると、永住カードは海外旅行の予定がある場合には優先的に再発給される「可能性はある」ものの、最低3ヵ月かかる。これで、その週に予定していたシアトル行きや11月のハワイ休暇もすべて台なしか。
日本旅券と永住カードの再発給には警察届が必要というので、バンクーバー警察の事務所に出頭して紛失届を出し、翌日深夜にオンラインで永住カードの再発給手続きを始めようとしたら、有効な旅券の写しを添付せよという。が、当然旅券はない。残っていた古い旅券をコピーしようとコピ―機のカバーを開けると、失くしたと思った書類が全部スクリーンにうつぶせになっているではないか! 探し求めていた書類全部を目にして、まるで古い恋人に再会したような懐かしい気分だった。
だけど、元の身内だから言うわけではないが、バンクーバーの日本総領事館に連絡したらすぐに人が出てくれたのは身に染みてありがたかった。