Home 観光・エンタメ シニアがなんだ!カナダで再出発 13年ぶりの日本

13年ぶりの日本

昼食会でわが69歳の誕生日を祝ってくれる弟家族この13年間に孫やインローなど初対面の家族が7人も増えた彼らから見れば私は浦島老人

今年こそはと思いつつ13年間も行きそびれていた日本行きが昨秋にやっと実現した。大阪伊丹空港まで乗り継ぎ、真っすぐ大学時代に住んだ京都へ向かう。午後8時ごろ空港を出るや、ギラギラネオンの異様なホテルが道路脇に並んでいる。新型のラブホテルなのだそうだ。外国人観光客が最初に目にする日本の顔がこれだとすれば、大丈夫だろうかと思わず首をかしげたくなる。

リモタクシーで京都の宿に着くと、運転手は玄関にホストが現れるまで待ってくれて、確認が済むとにこっとお辞儀。「ありがとうございました。おやすみなさい」と言う。話に聞いていた近頃の日本式「おもてなし」とはこれかと、先ほど空港近くで見たホテル群の印象が薄れる。

バンクーバーの友人たちが長期滞在している、流行りのレンタル町屋の一室をあてがわれ、久しぶりの日本旅行が始まる。だが、北米生活45年の私には町屋の鴨居が低く、頭をぶつけそうになる。台所のカウンターも低くて狭い。トイレと風呂が別なのも面倒で、温水洗浄便座はありがたいが、温かい便座には慣れるまで時間がかかった。いろんなカルチャーショックがありながらも、これぞ京都だったなと懐かしく、これからの日本文化再発見への期待に胸が膨らむ。

左京区にある法然院の前庭

宿から銀閣寺までの途中には「哲学の道」や、大文字山麓に佇む法然院がある。この寺の前庭両側に盛られた砂壇を通ると、地面を覆う杉苔の緑、青々とそよぐ木々の葉が目を引き、10月下旬というのに秋の気配を感じさせない。今風の店はあるものの、ほとんどの家や商店は懐かしさであふれ、あまり変わっていない京都に安堵する。

翌日は古物好きのカナダの友人たちと寺町通(てらまちどおり)を散策。大学時代に私が働いていたレストランがあったこの道を、今出川から四条通(しじょうどおり)まで歩く。美しくエキゾチックでさえある京都の軒並み。生け花や陶器の1点でシンプルに飾られた商店の表玄関が「和の美」を競い合う。友人2人は古物店を1軒残さず覗き、着物や瀬戸物のデザインに感嘆の声を上げる。

出町柳で100年の歴史を持つ京漬物屋の変わらぬ店構え

御池通(おいけどおり)の市役所下には東西に地下鉄が走り、食堂街が続く。「こんなところで働いていたのだ」と懐かしがるが、当時の実感はもう戻らない。別の日、昔なじみの場所をもっと見てみたいと、日本を出る直前まで住んだ「寺町今出川上ル」の古い邸宅を探し歩くが、記憶が薄れて見つからない。

友人の案内で初めて、東大路三条にある屋根付きのレトロな古川町商店街を歩く。途中で、いなりずしと総菜を買って昼食。全て手作りと話すおばさんたちとの会話も弾み、ぬくぬくと幸せなひととき。非営利の画廊や、古い町家の表を残して建て直したブティック・ホテルなどは、観光客誘致の努力が具象化されたものか。時代に沿って伝統産業を保存していこうとするチャレンジ精神を垣間見るも、人通りはまだ少ない。(次回につづく)

[カナダで再出発]

 

滋賀県生まれの団塊世代。京都産業大学卒業後日本を脱出。ヨーロッパで半年間過ごした後シアトルに。在シアトル日本国総領事館に現地職員として39年間勤務。政治経済や広報文化などの分野で活躍。ワシントン大学で英語文学士号、シアトル大学でESL教師の資格を取得。2013年10月定年退職。趣味はピックルボールと社交ダンス。