リタイアメント危機から私を救ってくれているものの一つがピックルボール。激しい動きなくして楽しく運動ができることから、今シニアに大人気の球技である。
5月になって、近所のレクリエーションセンターでピックルボールの初心者用トレーニングに申し込んだ。 ヨガはいいのだが時間が早く経たないかと時計とにらめっこになるし、トレッドミル上を30分間走るのも極めて退屈。もっと楽しく健康維持に資する何かをしたいと思ったのが理由だ。
ピックルボールは、ワシントン州選出で下院議員だったジョエル・プリチャード氏らによって1965年に誕生したスポーツ。家族が楽しめるようにと庭でバドミントンをしようとしたが、羽が見当たらない。そこでバドミントン用のネットをテニスのネットの高さくらいにして、ありあわせの合板を切り抜いて作ったラケットでウイッフルボールと呼ばれる穴のあいたプラスチックのボールを打ち合ったのが始まり。
週1回、全5週間のトレーニングを終えて、まだ不安を残しながらシニアグループに混じってゲームをすることになった。私は打つ番が来るたびに転んで、そこでプレーが終わってしまう、という情けない打ち方を何度もするのである。私の動きを逐一分析してこうしろああしろと言ってくれるうるさいじいさんはいるし、後ろの方で待ち構えているとネットの近くにポトンとボールを落とす意地悪ばあさんもいて汗だくになる。教師から「絶対にあきらめないこと」と言われていたものの、「これではとてもだめだ」と、ゲームに加わるのがおっくうになった。私は生来受け身型の性格でいながら極めて競争心が強く、ヨガを始めた頃も隣の若い金髪女性に負けてなるものか、とがんばりすぎて腰痛になったり、ピックルボールでもボールを無理に追っかけては転んでいたのだ。
その頃、廊下で出会ったあるシニアが「我々シニアのスポーツは勝つためではなく健康維持のためにするのだ。だから自分が気に入るように打てばよい。勝とうとしなければゲームが楽しくなる」と言った。単純な私はこの一言で目から鱗が落ちた。そしてヤジなど気にせず、自分なりに落ち着いてボールを打つようにしたら、やがてボールが自ずとうまくラケットに当たってくれるようになったのだ。
約50年間ほとんど休みなく働いてきてリタイアした私は、こうして日課が増え、日曜日でも平気で夜更かしできる隠居生活に慣れて来ると、いつしかまるで子どもの頃に戻ったような自由な気分になった。シニア万歳。リタイアメントもいいもんだな。
[カナダで再出発]