シニアがなんだ!カナダで再出発
在シアトル日本国総領事館に現地職員として39年間勤務した後に、2013年定年退職した武田 彰さんが綴るハッピー・シニアライフ。国境を超えるものの、シアトルに隣接する都市であるカナダのバンクーバーB.C.で過ごす海外リタイアメント生活を、お伝えしていきます。
オミクロン株蔓延前にちょいとシアトル訪問
昨年11月末、カナダでより感染力が強いと言われる新型コロナの変異ウイルス、オミクロン株が確認された。ワクチン接種を完了した合法カナダ住民がアメリカに陸路で南下しても、72時間以内に戻れば往複で検査不要となっていた12月初旬、この機を逃したらまたいつ行けるかわからないと、思い切って2泊3日のシアトル旅を決行。案の定、この臨時措置は12月21日をもって取り消された。
久しぶりのアメリカ。ブレインの米国境は車がポツポツと見られるだけだった。簡単に素早く国境を通過できる認定旅行者プログラム「NEXUS」のカードを提示しつつ、再開された専用キオスクへと進む。顔認識機能があるのか、係員はカードやワクチン完了証書さえも、ちらっと見るだけ。心配性かつ元役所勤めの私が、「72時間以内に帰国した証拠になるように、日付判を押して」と係員に頼むと、「カナダはあなたの出国を知っているから必要ない」とそっけない。「本当?」と半信半疑ながらほかに案もなく、一路シアトルへ。
通い慣れたI-5から見える景色は2年前と変わらない。バンクーバーでは出せない70マイルのスピードで車を飛ばす。午後5時には、まず旧友R宅に到着した。用心深い彼は、まず新型コロナの家庭用検査キットを取り出し、お互いの陰性結果を確認。そして、私がかつて住んでいたフィニーリッジの中華レストランに赴き、ディナーをテイクアウトした。デザートはもちろん、本誌に長く連載していたレシピ・コーナーでもおなじみ、せつこペイストリー(Modern内)で調達。
同夜は、カナダ移住以来、シアトルの常宿を提供してくれる旧友S宅へ。マディソンパークにある家の2階には私用の部屋があり、クローゼットの中身もバスルームの電動歯ブラシさえも2年前に訪れた時のまま。友人の好意に、長かった空白もすっ飛んだ。本当に感謝しかない。翌日は旧友Mと、昔通った寿司シェフが営む店でランチ。最近やっと退職し、ここぞとばかりに毎日の習い事にいそしんでいると話すMは、シニアライフを謳歌(おうか)しているようだ。より人なつっこくなって、「年を取ると丸くなる」を体現?
同日、旧友危篤の知らせに昼食後はベルタウンへと向かった。フレッド・ハッチンソンがん研究センターの周りは大きなビルがさらに増えた印象。シアトルにいて親を看取ることもできなかった私は、親しい人の臨終をこの年齢にして初めて経験した。もう何もわからないと言われたが、その旧友の手を握り、「ムシムシ」(「もしもし」をなまらせて)」と、彼と私の合言葉(?)で話しかけると、彼がちらっとまばたきをしたように感じた。
翌日は帰路となる。「ArriveCAN」というアプリを使い、カナダ入国許可申請手続きを済まさなければ。入国前3日以内にオンラインで申し込むシステムだが、無視すると1,000ドル以下の罰金の可能性もある。
翌朝、午前6時に電話が鳴った。危篤だった旧友が、「昨夜午前12時前に息絶えた」と言う。これもめぐり合わせだろうか。「メメント・モリ」(いつか死ぬことを忘れるな)の記憶がまたひとつ増えてしまった。