「遠くの親戚より近くの他人」とはよく言ったもので、65の齢で新しい国に移住するはめになった一人暮らしの自分には、信頼できる友人関係を築くこ とが最重要必須項目と考えたが、この年で心の通う友だちができるかどうか……。
そんな不安も手伝って、まだシアトルで勤務中だった2013年夏、バンクーバーの東隣にあるバーナビー市のイベント「日系祭り」に行った。会場で出 会ったのが、東北大震災犠牲者支援の寄付集めをしていた仙台出身のミチコさんだ。日系一世のシニアには珍しく流暢な英語を話し、気さくで自由な雰囲 気を醸しだしている。思い切って「祭りが終わったら夕食でも」と誘ってみた。果たして彼女がカナダで最初の友人となった。
カナダ移住後、今年で50年を迎えた70歳過ぎの彼女は、週2、3回はジムで1時間半エクササイズした後、さらに1時間泳ぐという健康シニア。その面持ち も年齢を感じさせない。おまけに週一回はグラウス・マウンテン(Grouse Mountain)の急坂を一挙に上りきるほどエネルギッシュ。趣味は社交ダンスと クラシック音楽を聴くこと。今は独身だが、最初のご主人との間にできた3人の子どもを途中から一人で立派に育てたしっかり者で、不動産の斡旋、日本 人相手の旅行ガイド、筆跡鑑定と、育児のためには何でもこなして、今は孫が4人もいる。現在、数カ月前ダンスで知り合った素敵な彼氏と熱烈恋愛中。 彼女に誘われて私も1月から社交ダンスを習うようになり、はまっている。元気な彼女は年上にも関わらず、私が年老いて病気になったら世話をする、と 言ってくれる。
ミチコさんの紹介で、元米国人でリタイヤした美術館学芸員トム、自然治療の博士号を持つアントニーと知り合った。日本びいきの彼らとは意気投合し、 彼らが始めたブッククラブにも入ることになった。
そして、この夏登場したのがジェームズ。韓国系帰化移民の彼は日本式指圧を韓国で習得したマッサージ師。世話好きな彼は周りの人たちの面倒をよく見 る。ロブソン通りに面したパブリック・マーケット内に17年間クリニックを設けており、近所を歩くと多くの人が彼に挨拶をする。陶芸や絵をたしなむ など多趣味で、社交ダンスの達人。ミチコさんと始めたダンス会で知り合って以来、我が練習の成果が試せるダンス・イベントにも連れていってくれる。 職場の周りには韓国料理店が一軒おきにあり、おかげで今まで知らなかった本物の韓国料理にも出会えた。食べ物に喜びを感じる私は本当にありがたく 思っている。
[カナダで再出発]