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コロナ騒ぎで露呈したアジア系差別

コロナ騒ぎで露呈したアジア系差別

今年の春、バンクーバーでは「中国人の入国を止めろ」、「カナダから追い出せ」などと中華街で落書き事件が連続して発生した。パンデミックを機にアジア系を対象とするヘイトクライムが急増している。バンクーバー警察は移動式監視カメラを設置するなど対処し、メディアも大きく報じた。今年5月22日までに起こったアジア系住民へのヘイトクライムは29件と、昨年同時期4件に対し7倍強に上ると伝えられる。人種差別は今に始まったことではない。バンクーバー都市圏は、2016年の統計結果で人口243万人のうち欧州系120万人(49.3%)に対しアジア系113万人(46.5%)と拮抗。中華系だけでも52万人(21.4%)となっている。それでも、中華街の真ん中でこのような事件は起きる。

パンデミックで人種差別の対象となったバンクーバーのチャイナタウン歴史的な街並みは健在だが6月に訪れた際は人通りが少なかった

かの被害例を挙げると、信号待ちのアジア系女性を男が押し倒す、若者3人が路上でアジア系女性を襲い、こん棒で強打する、コンビニでアジア系老人男性に男が暴言を吐き外に連れ出して突き倒す、くしゃみをした通りがかりの先住民女性を男がアジア系人種差別的暴言を吐きながら殴る、中国系女性が通りすがりに唾をかけられる、中華街でアジア系女性2人が路上に止めた車の窓を割られる、アジア系老人夫婦の住居前に「中国へ帰れ」と書かれたプラスチックのふたが置かれる、などがある。

いつもなら観光シーズンたけなわの6月高台からバンクーバーのダウンタウンを一望できるクイーンエリザベス公園も今年は人がまばら

あからさまに避けられたり、聞こえよがしに差別的な会話をされたりと、さり気ない人種差別行為を含めると切りがない。私は当地に移り住んで6年間、直接的な被害に遭ったことはない。しかし、TV映像やSNSの動画で被害を目にするたびに自分の存在を一部の住民に否定されたように感じ、絶望的な怒りを覚える。

華僑華人の割合が市内人口20万人の約半分を占めるリッチモンド戦前には日系人コミュニティーも栄えたが政府により強制収容された暗い過去がある今でも市内には最南端の港町スティーブストンを中心に5千近くの日系人日本人が住む

バンクーバーの隣には中華系住民の多い「新チャイナタウン」たる街、リッチモンドがある。そこでは市議が個人的に対抗組織を立ち上げるなど新たな動きが出ている。カナダ全体でも被害者を支援する団体が存在する。また、バンクーバー市政府では、被害者や目撃者の届けにより警察が事件を取り調べるほか、人種の多様性を祝福するイベントをサポートして住民の意識を高める「アジア系住民月間」を実施。市長も「バンクーバーはいかなるヘイトも許容しない」と述べている。ただ、犯人が捕まって罰せられたというニュースはあまり聞こえてこない。警察は、検挙手続きは複雑で動画も決定的証拠にはならないと弁明する。

趣味の社交ダンスを一緒に練習した仲間たち新型コロナの流行で通えなくなったダンスクラブのメンバーもほとんどが中華系だ
リッチモンド市議会議員が個人的に立ち上げたStop Racism Allianceホームページ1世紀前の移民の到来により始まったこのコミュニティーで人種差別は今も将来も許容しないと唱う
コロナ禍でも晴れた日はノースバンクーバーにあるアウトドアコートでピックルボールを楽しむすぐ横の公園の木陰ですき焼きランチのピクニックも40年前にシアトルの宇和島屋で買った携帯ガスコンロが活躍

当地での一連のアジア系人種差別は、今マスコミをにぎわすBLM運動に見られる黒人差別とは異なるが、欧州から北米に渡った白人先駆者たちの子孫が、先住民族を含め他人種に差別的暴力を振るうという点は共通している。カナダは大戦中、米国に並んで日系人を強制収容した過去がある。当地や米国で人種差別が未だに頻発する現状を見ると、問題はなかなか解決には向かわないと感じる。人は自分の生き方が正しいと思いたいものだ。異種の生き方、価値観を持つ人たちをひとまとめにして毛嫌いし、差別することが普通である人を変えるのは容易ではない。そう悲観してしまうのは私だけだろうか?