パピーミルとは何か
フェイスブックに10万人以上もファンを持つ、ハーレーという名前のチワワがいます。片目だけど、愛嬌のあるかわいい顔がチャームポイント。世界中から愛されましたが、今年3月、惜しまれながら15年の生涯を閉じました。犬の15歳は長寿ですよね。でもハーレーが幸せだったのは最後の5年間だけでした。
「パピーミル」という言葉を知っていますか? 子犬を商品として大量生産する施設で、アメリカでは特に中西部、ミズーリ州をはじめ、ペンシルベニア、オハイオ、ニューヨーク州の北などに多く存在します。そこではあらゆる犬種の、時には数百匹もの犬が「生ませる道具」として、狭く不潔な檻の中で糞尿にまみれた状態で飼われ、無理な繁殖をさせられています。病気になっても獣医にも見せてもらえません。ハーレーはこうしたパピーミルで生まれ、10歳まで虐使された繁殖犬でした。病気で使いものにならなくなると、まだ生きているのにバケツに捨てられるというむごい仕打ちを受けましたが、最後に心ある人に助けられた奇跡のチワワなのです。
ペットショップやオンラインで売られている子犬を見たら、ハーレーを思い出して下さい。そこで売られる子犬を繁殖するのがパピーミルです。子犬はかなり早い時期に母犬から離され、兄弟と遊ぶこともなく、母犬からマナーを学ぶこともできません。例えば人間の赤ちゃんをお母さんから引き離して箱で輸送したりしたら、精神にどんな影響を与えるでしょう。犬も同じです。ところがそうした子犬は、ペットショップやオンラインで「責任あるブリーダーの子犬」として売られているのです。
無責任なブリーダーによる子犬の繁殖
ブリーダーにもいろいろありますが、お金さえ出せば誰でも買えるところで売るのは、子犬の安全を守る責任を放棄した無責任なブリーダーです。いわゆるパピーミルで繁殖をさせているのがこういう人たちです。一方で、責任あるブリーダーは仲介を通して子犬を売らないし、輸送することもありません。通常一つの犬種を自宅で繁殖します。買い手は直接ブリーダーの家を訪ね、母犬と子犬が育った環境を見せてもらえるし、ブリーダーは大切な子犬の一生を託す相手が誰か、会って確認します。
パピーミルでは、誰にも守ってもらえない膨大な数の犬が、いずれ余って処分される膨大な数の子犬を生まされ続けています。消費者は愛犬家でありながら、巧みな商法の裏にある現実を知らないため、仲介者や虐待ブリーダーに資金をあげていることになります。
日本では犬はペットショップで買うのが当たり前になっています。しかし、世界の動物愛護に強い関心を持つ国々ではペットショップで犬や猫を売ることへの反対運動が起こっている時代です。東京オリンピックまでに動物の殺処分をなくそうという運動があるようですが、その時にペットショップで子犬が売られていたとしたら、動物愛護の精神は伝わるでしょうか?
賢い消費者になりましょう
犬を守るためには、消費者が賢くなるしかありません。ビジネスにならないと分かれば、それを売り続ける人はいなくなります。今、飼っているあなたの愛犬はパピーミルから来たかもしれませんが、もしそうであってもそのことで自分を責めないでください。それよりも、パピーミルをなくすために、機会があれば少しでもいいから声を上げて欲しいと思います。それが、あなたの愛犬を産んだ母犬を助けることになるかもしれません。
シアトルと近郊の街では、60店ものペットショップが2010年に「子犬を愛しています。だから売りません」というスローガンのもと、店で子犬を売らないという米国動物愛護協会の請願書にサインをしています。子犬をショーケースで売らない街シアトルから、あなたの故郷に向けて発信しませんか?
参考:
The Humane Society of the United States
ASPCA
日本でも、日本の犬猫の現状を伝える次のような書籍が出ていますので、ぜひ読んでみてください。
『それでも命を買いますか? ペットビジネスの闇を支えるのは誰だ』 杉本 彩 (ワニブックスPLUS新書)。
『子犬工場 いのちが商品にされる場所』大岳 美帆(WAVE出版)。
『日本の犬猫は幸せか 動物保護施設アークの25年』エリザベス・オリバー( 集英社新書)。
筆者プロフィール:粥川由美子
北海道出身の画家。幼少よりロック音楽や映画、ファッションなど欧米のポップ文化に傾倒。動物や自然を愛し、それらを日本的なモチーフと混合し表現している。16歳でマンガ誌上デビュー。北海道総合美術専門学校(札幌)卒業。2005年より米国ワシントン州シアトル市在住。seattleiroirostreet.blogspot.comに愛犬キットとの日々を綴ったブログ「キットと歩こ、シアトル“いろいろ”ストリート」掲載中。
公式サイト:sweetyumiko.com