89歳の女性の話をしよう。補聴器を着け始めて1カ月が経った頃だった。彼女は、帰り際に「先生、猫って鳴くんですね」と、突然嬉しそうに言う。私は一瞬聞き間違えたのかと思い、聞き直すと、同じ言葉が返って来た。どう返事をしてよいのか戸惑っていると彼女は、「この補聴器をつけ始めていろいろな音をまた聞くことができ、とても嬉しく思っているのだけれど、一番嬉しいのは、私の猫の声を聞くことができたことなんです」と言った。彼女の猫はあまり騒がず声も小さいので、今まで、口が開いた様子を見てエサが欲しいことを察していたとのこと。ところが補聴器を付けてから、「ニャー」という鳴き声が聞こえるようになり、その声や様子が愛くるしくてしょうがないとのこと。幼少時からたくさんの動物に囲まれて育ってきた彼女には、猫の鳴き声が最高のご褒美となったようだ。お腹が空くたびに、横でニャーニャーと鳴き続ける我が家の猫を見ながら、「うるさいなー」とイライラする私とは対照的だった。
著者プロフィール:真宮杏奈
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