健康な歯でスマイルライフ
日本では北海道医療大学歯学部で博士号を取得。米国でもロマリンダ大学歯学部を卒業し、2005年にPAN-PACIFIC DENTISTRY(パンパシフィック歯科医院)を開業した中出修先生に、アメリカで生活する日本人へ向けて歯や口腔について、説明していただきます。
アルツハイマー発症時期は歯磨きの習慣次第!?
歯周病は、アルツハイマー型認知症と関係がありそうだという話題は、これまでも何度か取り上げました。さらに有力な研究が出てきていますので、今回はこの話題を再度掘り下げたいと思います。
アルツハイマー型認知症とは
高齢者における認知症の原因として、現在最も割合が高いのがアルツハイマー型です。日米それぞれの患者数は400万人を超え、世界では約2,700万人が罹患していると報告されています。今後、世界的に平均寿命が延びるにつれ、2050年までに患者数は現在の3倍に達するとされ、その予防と治療は大きな課題です。
アルツハイマー型認知症は、認知機能や記憶を制御する脳の領域に影響を与える進行性の脳障害です。記憶(特に近時記憶)を始め、学習・判断・コミュニケーション能力が徐々に破壊されていきますが、これは神経細胞が死滅し、認知機能障害が発生するためです。主な原因としては、アミロイドβ(Aβ)と呼ばれるタンパク質が凝集して構成される老人斑が脳神経細胞外に沈着すること、また高リン酸化により神経細胞の軸索機能(神経細胞の通信回線に相当する箇所の機能)の維持に必須なタンパク質であるタウ・タンパク質の異常が引き起こされ、脳神経細胞内で神経原線維変化(神経細胞を支える繊維組織の変化)が起こることが挙げられています。
患者の脳内で歯周病発症の有力な細菌を発見
2019年1月、米ルイビル大学のヤン・ポテンパ博士らの研究チームは、アルツハイマー型認知症患者の脳組織を調べ、慢性歯周炎の原因として最有力の細菌であるポルフィロモナス・ジンジバリス菌が確認されたと学術雑誌『サイエンス・アドバンシーズ』で発表しました(*)。同研究では、患者の脊髄液中からもポルフィロモナス・ジンジバリス菌のDNAが検出されたとの報告もあります。さらに脳内には、ポルフィロモナス・ジンジバリス菌が産生する毒性タンパク分解酵素、ジンジパインも確認されており、そのレベルは、アルツハイマー型認知症と関連のある異常タウ・タンパク質やユビキチンとの相関が認められたとしています。また、研究チームでは、マウスの口内にポルフィロモナス・ジンジバリス菌を感染させたところ、6週間後には脳内でポルフィロモナス・ジンジバリス菌が確認され、脳内のアミロイドβも著しく増加したとのことです。
まとめ
今回の研究は、歯周病とアルツハイマー型認知症との因果関係を完全に証明するには至っていませんが、歯周病の悪化がアルツハイマー進行につながる可能性を示唆するものです。 一方で、ポルフィロモナス・ジンジバリス菌の毒素に対するワクチンの開発なども進められており、今後の研究の進展に期待が高まっています。
いまだ歯周病は、人類で最も蔓延した感染症であることに変わりありません。日頃から口腔清掃と歯科の定期検診を欠かさず、歯周病の予防に努めたいものですね。