今、「Biomimetic Dentistry」 (直訳すると、生命をまねる歯科)という言葉が、歯科ではトレンドになりそうな気配を感じます。Biomimetic Dentistryの目指すところは、接着技術を駆使してルートキャナル(根幹治療)や抜歯を避け、自分の歯を残し、残した歯もなるべくクラウンを避け、元の歯質を最大限に保存しようという治療です。同じような概念として、「接着歯科(Adhesive Dentistry)」や「Minimally Intervention Dentistry」といった言葉があります。
現在の歯科界は、米国を中心に、問題のある歯を早めに抜歯してインプラントにする治療が好まれています。しかし一方で、このように自分の歯にごだわる動きもあるのです。今回は、歯の接着技術で歯を保存するというテーマで書いていきます。
歯の接着技術
歯の接着技術がそれほど発達していなかった時代は、歯を修復した部分が取れないようにするために、虫歯以外の部分まで大幅に削る必要がありました。例えば、「アマルガム」などの金属修復物には歯との接着性がないため、保持構造を健康な歯の内部に求めるので、より多く歯を削らなくてはなりません。すると自分の歯自体がもろくなり、壊れやすくなってしまうのです。
しかし1970年代、「コンポジットレジン」と呼ばれる、歯の色に近いレジン接着技術が開発されました。これにより、審美的に優れ、歯と化学的に接着する詰め物やセメントの開発が進み、歯科治療は一変しました。
コンポジットレジンを使うことにより、歯を削る量が減って、長期的にもより良好な結果が得られるようになってきました。
歯の接着の応用の具体例
1. 深い虫歯
深く大きな虫歯で、歯の神経(歯髄)までほぼ達していて、症状が特になく、歯髄の炎症がほぼない状態というケースがあります。虫歯を全部取ると神経が露出し、完全にルートキャナルになってなってしまうような場合でも、神経に接するごく一部の虫歯をあえて残して、その部分を消毒して特殊な材料で覆い、その後、コンポジットレジンで修復する治療が行われています。
2. 歯の破折
外傷で歯が大幅に欠けた症例で、歯髄がむき出しになりそうなケースでも、壊れた歯を接着技術で元の形態に復元したり、あるいはコンポジットで修復し、同じようにルートキャナルやクラウンを避けられる場合があります。
まとめ
接着技術によって、ルートキャナルやクラウンを避け、歯を保存できる場合があります。自分の歯にこだわりたい方、再治療の可能性を容認できる方は、かかりつけの歯医者さんで相談してみるといいでしょう。
[健康な歯でスマイルライフ]