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肥満の薬が歯周病予防に?〜健康な歯でスマイルライフ

健康な歯でスマイルライフ

日本では北海道医療大学歯学部で博士号を取得。米国でもロマリンダ大学歯学部を卒業し、2005年にPAN-PACIFIC DENTISTRY(パンパシフィック歯科医院)を開業した中出修先生に、アメリカで生活する日本人へ向けて歯や口腔について、説明していただきます。

肥満の薬が歯周病予防に?

肥満率が世界一と言われる肥満大国アメリカでは、ここ最近、GLP-1受容体作動薬が2型糖尿病薬および肥満症治療薬としてFDA(米国食品医薬品局)により承認されてきており、使用する人が爆発的に伸びています。われわれ歯科関係者にとっても肥満は歯周病にマイナスに働くことが分かっており、その効果は気になるところです。一方で、比較的新しい薬のため長期的な安全性に疑問を呈している専門家も少なくありません。今回は、GLP-1受容体作動薬と歯科との関連について書いていきたいと思います。
GLP-1 (Glucagon-like peptide-1) 受容体作動薬について
食事をとると小腸から分泌され、インスリンの分泌を促進するホルモンをインクレチンといいますが、GLP-1はインクレチンの一種。GLP-1受容体作動薬はGLP-1に類似した働きをする薬物で、膵臓のβ細胞上に存在しているGLP-1受容体に選択的に結合し、インスリンの分泌を高め血糖値を下げる働きがあります。そのため2型糖尿病薬として使われてきました。同時に、脳の食欲中枢に作用して食欲を抑制し、胃の運動を低下させることから胃に食物が長時間停滞し満腹感が持続、その結果、体重が減少することが分かってきました。最近では食事療法や運動療法を受けている肥満、過体重患者の肥満治療薬としても認可されてきています。注射薬のウゴービ(Wegovy)、オゼンピック(Ozempic)、マンジャロ(Mounjaro)等や経口薬のリベルサス(Rybelsus)があります。
GLP-1受容体作動薬と歯科との関連
科への影響については十分に解明されているとは言い難い段階ですが、現時点で、以下のようなメリットとデメリットが報告されています。
1.歯科におけるメリット
GLP-1受容体作動薬には、古い骨を壊す破はこつさいぼう骨細胞の働きを低下させることで骨吸収量を抑制し、骨の形成を促進する作用が報告されています(Medicina 2022, 58 (2) )。実際にラットを使った歯周病モデルの実験において、骨吸収量の抑制が認められ、歯周炎に対す抑制効果が示唆されたという報告(Journal of Diabetes Research, vol. 2020, 20 Nov. 2020 )があります。また、肥満および血糖値の改善自体が、歯周病の予防につながると考えられます。
2.歯科におけるデメリット
(1)口臭の増加:食物が胃に長時間停滞することから、口臭が強くなる可能性が考えられます。オゼンピックの使用で実際に口臭がひどくなったとの報告もあります。
(2)歯の酸さんしょくしょう蝕症の増加:胃に食物が停滞すると口腔内へ逆流する胃酸が増え、歯が溶ける酸蝕症のリスクが高まるため、歯が弱くなり虫歯になる可能性が考えられます。
まとめ
ヘルスケアの分野で注目が高まっているGLP-1受容体作動薬ですが、歯科への影響については現在のところ良い面、悪い面の両方が考えられます。この薬を使用している方は、歯科医に知らせましょう。

参考文献


■FDA
www.fda.gov

■第2パラグラフ: Medicina 2022, 58 (2)
www.mdpi.com/1648-9144/58/2/224

■第2パラグラフ: Journal of Diabetes Research, vol. 2020, 20 Nov. 2020
www.hindawi.com/journals/jdr/2020/8843310

中出 修
福井県出身。1985 年、北海道医療大学歯学部卒業。1993年、同大で博士号を取得後、講師に就任。 2003年、ロマリンダ大学歯学部卒業。歯科医勤務を経て2005年、タコマ近郊に開業。2006年10月にサウスセンターモール近くに移転。 パンパシフィック歯科医院 Panpacific Dentistry 411 Strander Blvd. Suite 207, Tukwila, WA 98188 ☎ 253-243-7748