健康な歯でスマイルライフ
日本では北海道医療大学歯学部で博士号を取得。米国でもロマリンダ大学歯学部を卒業し、2005年にPAN-PACIFIC DENTISTRY(パンパシフィック歯科医院)を開業した中出修先生に、アメリカで生活する日本人へ向けて歯や口腔について、説明していただきます。
前歯をぶつけて歯が抜けてしまった時の対処法
転倒事故や自転車、けんかで、あるいは野球やフットボールなどの試合や練習中に、前歯をぶつけることがあります。抜けた場合の正しい対処法はどうなんでしょう? 今回は、歯の外傷で歯が脱臼して抜けた場合を想定して書いていこうと思います。
ぶつけて抜けた歯をどうするか
抜けた歯は、すぐに家庭の冷蔵庫にある冷たいミルクの中に入れましょう。浸透圧が体液に似ていて、歯の周りの細胞が生きた状態で保てます。水で洗わないほうが無難で、もし洗うなら、5秒以内にすべき。水に長く浸すと浸透圧が低過ぎて、細胞が死んでしまいます。また、歯を乾燥させるのも厳禁。やはり歯の周囲の細胞が死んでしまいます。
冷えたミルクの中に抜けた歯を浸し、歯科医院になるべく早く行くのがベストと言えます。温かいミルクよりも若干良い状態が保てるとの報告もあります。生理的食塩水や歯専用の保存液(Hank’s balanced salt solution)より、むしろミルクのほうが良いと言われています。ミルクがない場合は、抜けた歯を下唇と舌の前の間に入れ、飲み込まないよう注意しながら、歯科医院に駆け込むといいでしょう。唾液の中に浸した状態も悪くはないのです。
歯科医が口腔内を精査し、レントゲン検査なども行い、歯を戻せると判断した場合は、歯の再植治療が可能です。通常は歯を生理的食塩水(場合によっては抗生物質を添加)で軽くすすぎ、歯を元の位置に戻して周囲の歯と固定し、歯の動揺が収まるまで(通常2、3週間)固定し続けます。抜けてから再植までの時間が短ければ短いほど、また年齢が若いほど、再植の成功率は高くなります。歯の周りの靭帯である歯根膜、歯の中の神経である歯髄が、再植後も生き続ければ、完全な成功と言えます。生き続けない場合は、後に歯根が吸収されたり、歯の神経治療が死んでルートキャナルが必要になったりします。歯根の吸収が著しいと、後に抜歯に至ることも。抜けた歯の歯根の一部が体内に残った場合も、あきらめることはありません。あとで神経治療が必要となるかもしれませんが、そのまま歯を戻し、再植が成功する可能性もあります。
しかしながら、このように抜けた歯をいい状態で持っていっても、歯科医の判断によっては、自分の歯の再植を快く思わず(後の神経治療、歯根の吸収の可能性を憂慮)、人工歯根を使った治療を選択するかもしれません。あらかじめ、再植治療をやっているか問い合わせ、場合によっては他の歯科医院を受診する必要も出てくるでしょう。その点はご注意を。
まとめ
歯の再植で行くかインプラントで行くかは、それぞれの利点・欠点を歯科医からよく説明してもらい、自分で最終判断できる状況が望ましいように思います。ちなみに、いわゆる出っ歯の人は歯の外傷を起こしやすい? 答えはイエスです。転倒の際に前を打ちやすいので、歯の外傷を起こしやすいと言えます。そういった意味でも、歯の矯正治療が望まれます。