健康な歯でスマイルライフ
日本では北海道医療大学歯学部で博士号を取得。米国でもロマリンダ大学歯学部を卒業し、2005年にPAN-PACIFIC DENTISTRY(パンパシフィック歯科医院)を開業した中出修先生に、アメリカで生活する日本人へ向けて歯や口腔について、説明していただきます。
マリファナが口腔の健康に及ぼす影響
このコラムではこれまで、タバコが口腔に及ぼす害について言及してきましたが、大麻(マリファナ)に関しては取り上げたことがありませんでした。アメリカでは2000年代前半に、若者の間でマリファナの使用がタバコの使用を上回ったと言われます。現在では、医療目的のマリファナが合法なのは37州で、嗜好用でも合法となっているのが19州あり、今後も合法な州が増えると見られています。
今回はそうした現状を踏まえて、マリファナが口腔を含め健康に及ぼす影響について書いていきたいと思います。
マリファナの薬理作用
まず、マリファナの有効成分について説明します。カンナビノイドと呼ばれる3大成分として、THC(デルタ -9- テトラヒドロカンナビノール)、カンナビノール、カンナビジオールが挙げられます。
最大の成分は THC であり、脳内のカンナビノイド CB1受容体を刺激することで、快楽、幻覚、鎮静、抗不安、鎮痛などの薬理作用を発揮します。
マリファナ使用に伴う健康リスク
マリファナの全身への影響ですが、以下の少なくとも7つのリスクを高めるとされています。
1.精神依存性(耽溺性)および幻覚作用
2.脳の萎縮による痴呆症
3.呼吸器疾患
4.受動喫煙による他人への健康被害
5.統合失調症など精神疾患
6.免疫力低下の恐れがあり、HIV(ヒト免疫不 全ウイルス)など、さまざまなウイルス疾患に かかりやすくなる
7.女性の月経周期を乱し、生殖機能が低下
口腔の健康への影響
マリファナは、タバコの喫煙よりも害が少ないと考えている方がいるかもしれません。調べてみますと、決してそんなことはなく、マリファナもタバコも口腔の健康にはすごぶる良くないことがわかります。
マリファナは、全身の免疫にマイナスに働くせいか歯周病にかかりやすく、歯周病の進行が加速します。また、口腔乾燥症になりやすいため、虫歯も増加傾向に。さらには白板症という口腔がんの前段階の状態に陥ることで、口腔および頭頸部のがんのリスクを上げてしまいます。
まとめ
アメリカではマリファナを合法化する州が増え、われわれ歯科医も以前よりマリファナを使用する患者さんに遭遇する頻度が高いように思います。マリファナの健康への影響について、タバコほどはまだまだ解明されていませんが、全身および口腔の健康においてマイナス面が大きいと言わざるを得ません。 医療で一定の効果が期待できるとはいえ、心身全体の健康を考えると、とても勧められるものではないと言えそうです。使用される方はこれらのリスクを十分に考慮する必要があるでしょう。
参考文献
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