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歯髄細胞が失明の危機を救う?

神経の再生医学の分野で歯髄(いわゆる歯の神経と呼ばれている部分)の幹細胞が注目されています。以前にもこのコラムで紹介したことがあります。最近の英国バーミンガム大学の研究では、ラットにおいて歯髄由来の幹細胞が網膜損傷後の網膜細胞の死から守り網膜細胞の細胞再生を促進することを明らかにし、脚光を浴びています。同様の実験は日本でも着々と進められています。今回は歯髄幹細胞と網膜再生の話題を中心に解説していきたいと思います。

歯髄の特徴

歯髄は歯の中心部にあり、神経、血管、幼弱な結合組織による細胞の集合からなる組織ですが、元々の発生は神経提という神経由来の細胞であるため、神経系細胞への分化能に優れています。そのため、歯髄由来の幹細胞を使った網膜再生、脊髄損傷、脳梗塞の治療への応用に関する研究が、世界中で競って進められています。

網膜細胞について

哺乳類において、成熟した網膜細胞は自己再生能がほとんどありません。そのため、外傷、糖尿病性網膜症、加齢黄斑変性などで網膜に損傷が起きると失明の危機に陥るのです。これまでの研究では、歯髄細胞自体の網膜細胞への分化能は高くないと考えられていましたが、最近では移植された歯髄細胞から産生されるいくつかの成長因子が既存の網膜細胞を活性化させ、網膜の再生が誘導されると考えられています。

歯髄幹細胞か人工多能性幹細胞(iPS細胞)か?

iPS細胞を用いた再生医療研究の中で最もヒトへの応用が近いとされるものが網膜再生に対する再生医療であるといわれています。しかし、遺伝子導入されたiPS細胞には癌化のリスクという不安が付きまといます。それに対し、本人の歯髄幹細胞を使えばより安全と考えられ、その取り扱いも簡単というメリットがあるため、神経再生治療における可能性に期待が高まっています。

歯の銀行

日本では、抜いた歯を凍結保存するシステムがいくつか出来ています。親知らずや矯正治療の際に抜歯された歯が主な対象です。凍結保存された歯は、将来、いろんな面で役に立つと考えられています。1.再植:将来、自分が抜歯に陥った場合に、インプラントの代わりに凍結していた自分の歯を、抜歯した穴に再植すること。2.iPS細胞の供給源:歯髄細胞からiPS細胞を作製し、様々な臓器の再生に応用すること。3.歯髄幹細胞を取り出して神経再生治療に応用することなど、様々な可能性を秘めており、歯の細胞は再生医療の分野で今後ますます注目されることでしょう。

[健康な歯でスマイルライフ]
福井県出身。1985 年、北海道医療大学歯学部卒業。1993年、同大で博士号を取得後、講師に就任。 2003年、ロマリンダ大学歯学部卒業。歯科医勤務を経て2005年、タコマ近郊に開業。2006年10月にサウスセンターモール近くに移転。 パンパシフィック歯科医院 Panpacific Dentistry 411 Strander Blvd. Suite 207, Tukwila, WA 98188 ☎ 253-243-7748