子どもとティーンのこころ育て
アメリカで直面しやすい子どもとティーンの「心の問題」を心理カウンセラー(MA, MHP, LMHC)の長野弘子先生(About – Lifeful Counseling)が、最新の学術データや心理療法を紹介しながら解決へと導きます。
自分の中の「いじめっ子」に気づいていますか?
~自己対話の重要性
子育てに追われる日々の中で、ふと「自分は今、何をどう感じているんだろう」と立ち止まる時間はありますか。朝から晩まで子どもや家族の世話、仕事などで忙しく、自分の気持ちは後回しになりがちです。その結果、常に何かに追われている感覚や、漠然とした不安を抱えることも少なくありません。こうした状態を少しずつ変えていく鍵になるのが、自分の内なる声と向き合う「自己対話」です。
心理学では、人は状況に応じて異なる側面を持つ存在として捉えられており、本来の感情や欲求に近い「内的自己」と、社会的役割に適応しようとする「外的自己」という観点が存在しています。子育て中は「良い親でいなければ」という思いから、外的自己が優先されやすく、内的自己が抑えられやすい状態になります。自己対話は、その内的自己に気づき、受け止めるための重要なプロセスです。
また、複数の自己が対話するという「対話的自己理論」によると、人は心の中で複数の、時に矛盾する視点を持ち、それらの対話によって感情の整理や意思決定を行なっていることが示されています。つまり、自己対話は「自分はどうしたいのか」という判断軸を育てるのに不可欠なスキルなのです。この軸があると、子育てにおいても周囲の評価に振り回されにくくなります。
自分との会話は、そのまま他者との関わりにも影響します。人に合わせがちな人、いわゆる外的自己が強く働きやすい人の中には、他者には優しくできるのに、自分には驚くほど厳しい言葉を使っている人も少なくありません。否定的な自己対話は、不安やストレスの増加と関連することも報告されています。多くの人は無意識のうちに、心の中に「いじめっ子」のような声を抱えています。「なんでうまくできないの?」といったダメ出しの言葉で、自分を追い立ててしまうのです。このような否定的な自己対話は、やる気を高めるどころか、自己否定感や焦りを強め、心の余裕を奪ってしまいます。
このような状態が続くと、子どもの些細な言動にいら立ったり、言うことを聞かせようとして厳しくなったりしがちです。また、安心感を外から得ようとして、他者からの承認を求める人もいます。つまり、自分に厳しい言葉をかけ続けるほど、他者の反応で自分の気持ちを落ち着かせたくなることがあるのです。その相手が、自分と心理的に近い存在である子どもになってしまうこともあります。
その逆に、自分に対して思いやりをもって接していると、子どもを同じような目線で見ることができ、子どもの中にも肯定的な自己対話が育ちやすくなります。この点については、発達心理学者レフ・ヴィゴツキーの理論が参考になります。ヴィゴツキーは、子どもは周囲の大人とのやり取りを通じて言葉を内在化し、それがやがて自己対話となり、思考や感情のパターンを確立するとしています。また、肯定的な自己対話は、感情の制御や課題への持続力と関連することが多くの研究で示唆されています。つまり、親の言葉や関わり方は、子どもの内なる声の土台になるのです。
それでは、自己対話をどのように整えていけばよいのでしょうか。大切なのは、「親友に話すように、自分に話しかけること」です。たとえば、朝起きたときに、「今日もいい感じだね」「何飲みたい?」など、優しく自分に語りかけてみてください。自分の一番の味方がそばにいるようなイメージです。もし頭の中でうまく整理できないときは、ノートに気持ちを書き出してみてください。「疲れた」「イライラする」とそのまま書くだけでも構いません。そして「本当はどうしたい?」と問いかけてみましょう。「誰かに認めてほしい」などの承認欲求でも何でもいいので、そこに出てくる気持ちを否定せず、「そう思っているんだね」と受け止めること。この積み重ねが、心の安定につながります。
忙しい毎日の中で、ほんの数分でも構いません。自分に優しく話しかける時間を持ってみてください。自分の中の「いじめっ子」に気づき、その声を少しずつ「親友」の声に置き換えていくことができるでしょう。自分との会話は、やがて子どもの自己対話へと受け継がれていきます。内的自己を十分に認めてあげることで、子育ても人間関係も少しずつ楽しく楽なものに変えていけるといいですね。

















