日本人が愛用する耳かき棒。子どもの頃、母のひざに頭を乗せて耳をそうじしてもらうのが好きだった。耳かき棒の先に白い綿毛がついていて、それで最後に軽くなでてもらうのも気持ち良かった。子どもが産まれると私が耳そうじをする側になり、下の息子が数分で寝息をたてていたのを覚えている。
日本では当たり前の耳かきが、アメリカでは当たり前ではないということ、アメリカ人は別のものを使って入ることを知ったのはオーディオロジープログラムで学び始めて3年目の時。
その代表がQ-tip(※綿棒)だ。来院された患者さんを診察する際には最初に耳の中を見る。「耳を見せてください」とお願いすると、多くの方が自慢げに「来院前にきれいにしてきました」と言う。そういう方のほとんどは、耳内部の皮膚が全体的に赤くなっている。「もしかしてQ-tipを使ってそうじをしていますか?」と尋ねると、皆さん「そうです、きれいですか?」と返す。みなさんQ-tipを使うと気持ちがよくて痒みも治まるし、耳垢をとってくれると信じている。ところがこれは間違い。理由は次に述べるが、Q-tipは耳穴の外側のそうじに留めて欲しい。
理由は3つ。まず、Q-tipには耳垢をかき出す機能はなく、耳垢があったとしたらかき出すどころか逆に奥に押しこんでしまうこと。次に、Q-tipの先端の繊維が皮膚に触れるたびに皮膚を摩擦して少しずつ傷つけ、それが耳が痒くなる原因にもなる。耳の中は適度に温かいため、傷ついた皮膚にバクテリアが繁殖する可能性もある。前述の耳穴が赤くなるのは、これが原因。3つ目は、まれにだが、アクシデントでQ-tipを押しこみすぎて鼓膜が破れることだ。Q-tipで掃除をしている最中にすぐ側のドアが勢いよく開いて肘や腕に当たり、Q-tipが鼓膜に突き刺さるというもの。授業中には、そんなばかなと思いながら聞いていたが、実際にQ-tipが刺さった状態の患者さんがよく救急病院に担ぎ込まれるそうだ。破れた鼓膜は徐々に穴が小さくなり最終的には塞がるが、傷跡が残ってそれが音の伝達に影響する可能性もある。鼓膜の裏の中耳内には3つの小さな骨が微妙なバランスを保って繋がっているのだが、これに当たってつなぎ目がおかしくなると難聴になるため、手術をしなければいけない可能性もある。
では、耳垢を取ったり、かゆみを抑えるにはどうしたらよいのか。まずは、髪の毛を洗うときにシャワーをしばらく耳にかけて、水圧で耳垢を出すようにする。お湯で耳垢をふやけさせ、外に押し出しやすくする。シャワーの後、耳の中に水が溜まっていると感じるときは、頭を傾けて、水を出すようにする。聞いた当初は疑わしいと思ったが、この方法を試みるようになってから、耳に痒みを感じることがほとんどなくなった。ただし、中耳炎、鼻炎、鼓膜の問題がある人は、まず専門家に耳の内部を確認してもらってから行うこと。痒みにはいろいろな原因が考えられるので、痒みが続く場合は主治医に相談するか、オーディオロジストに診察してもらうことをおすすめする。
次回から数回にわたってアメリカ耳事情について語りたい。
[耳にいい話]