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自動車事故と耳鳴り

56歳の男性の話をしよう。彼はあるスポーツのプロで、全米でもトップクラスの腕前だった。今から2年半前の夜、試合に勝って車で帰宅途中だった彼が信号待ちをしていた時のこと。助手席にはノートパソコンが入ったカバンを置いていた。上機嫌でラジオから流れてくる音楽に合わせて歌っていた最中、突然強い衝撃が車の右側を襲った。助手席のパソコンが大破し、しばらくしてから自分の車が前の車にぶつかったことに気付いた。衝突直前に右後方に振り返った状態で衝撃を受けたことにも、後で気付いた。事件を目撃した人の話では、ぶつかってきた車はその後何回かスピンしてそのままどこかに逃走したらしい。

現場に警察が来て事情聴取が行われたが、前の車の女性がパニックに陥っていたため警察は彼女につきっきりだった。彼は、体は無傷だったし非常に疲れていたこともあり、早々と帰宅した。しかしその夜から右耳に耳鳴りが聞こえるようになり、めまいが始まった。めまいの方はすぐ治まったが、右耳が聞こえづらくなった。事故後3日間ほど起き上がれず、1年近くマッサージ通いをする。自動車保険のPIP (Personal Injury Protection) の1万ドルを使い切ったころようやく体はましになったが、耳鳴りが続いているので主治医に相談。耳鼻科で聴力検査をして、音楽を聴くなどして耳鳴りが気にならなくなる方法をいくつか説明してもらう。たいした対処法がなかったため1年ほど放っておくが耳鳴りは一向に良くならず、今年1月頃に医師に相談して別の耳鼻科で再度聴力検査をした。

ここでは、①抗ヒスタミン剤の服用 ②鍼治療 ③機器を用いたサウンド治療の3つの方法を紹介される。まずは①を試してみるが変化なし。4カ月経って鍼治療に2週間ほど通う。通院中、耳鳴りが少しましになったように感じたが、保険が効かないため1回の治療に100ドル以上の出費が必要で、途中でやめてしまう。そのうち耳鳴りはさらにひどくなり、また主治医に相談に行く。

そうした経緯を経て、彼は当院に耳鳴り検査のために来院することになった。結果は、半年前と比べて右耳の聴力のみが非常に悪くなっており、耳鳴りの被害度がシビア(Severe)であることが分かった。このレベルになると耳鳴りが生活や仕事に支障を来たし、無視することが難しくなる。もう1段階悪くなると、自殺願望を抱くようになるほどの深刻なレベルだ。すぐ主治医に、右耳の周辺の骨に亀裂やずれなどの異常がないかどうか確認するためにCTスキャンかMRIでの検査をするようすすめ、現在、検査結果を待っている段階だ。

自動車事故の後に耳鳴りやめまいなどが始まった場合は、体が無傷でも、まずCTスキャンかMRI を撮って頭部に異常がないかどうかを確認することは非常に大切だ。この男性はそれをしなかったために、保険会社に今後の治療費を請求することは難しいだろうと、弁護士から言われている。事故後、被害妄想や不安な気持ちになることが増えて、あれだけ好きだったスポーツの試合に出ることもできなくなった。加害者も特定できていないし、被害の代償を自分の保険会社に要求することも難しいだろうと言われている。