今回は13歳の女の子の話をしよう。以前にも取り上げた症状だが、彼女は音恐怖症(Misophonia)を抱えている。ここ数年、彼女は家族と一緒に食事をとっていない。自分の部屋で食べるか、家族がいない場所に移って食べる。家族、特に父親と7歳の妹が噛む音、飲む音、すする音などを聞くと、イライラして家族に怒り始めるからだ。テレビは家族とよく見るが、父親からできるだけ離れたイスに座り、ヘッドフォンで音楽を聴きながら見る。父親の呼吸音が我慢できないそうだ。その他にも、時計の音、加湿器の音、いとこが叫ぶ声など、20種類以上もの音が大嫌いだということが分かった。非常にイライラした日は夜も眠れず、ようやく眠れるのが深夜2時か3時頃。何が我慢できないのかを、母親には正直に言っていたようだが、母親は告げられたことに対してどう対処してよいか分からなかった。その子の担当医にも相談したが、そんな症状は聞いたことがないと言われ、精神科医に行くことをすすめられた。母親は、精神科医に行くような問題とは思えずにいた。
両親は、13歳という難しい年頃が原因だろうと思うようにして、そのことには触れないようにしていたのだが、今年7月家族旅行をした時、夕食の席で、彼女が突然怒りだし、狂ったように乱暴になって物にあたったり、妹を怖がらせるような言動に出たのだ。一家は旅行を打ち切って翌日急いで帰宅し、インターネットで原因を探しまくった。そこでようやく音恐怖症という言葉にたどり着き、私のクリニックにやってきた。
彼女は、13歳とは思えないほど言動も大人びて、両親の前で自分の問題を説明してくれた。大好きな父親と妹に怒りを覚える自分に憤りを感じ、改善できるのであれば何でもやってみたいと話してくれた。診断の結果、彼女の音恐怖症は重度だった。
診断の結果、両親は、彼女の問題を理解してくれる専門家がいることを喜び、特に母親は、非常に興奮していた。両親は、デバイスを使った音恐怖症軽減治療に合意し、すぐにでも始めるように依頼した。デバイス装着の初日、彼女は母親と妹といっしょに来院した。症状に合わせた設定をいくつかして、ホワイトノイズの音量を設定する。設定中イライラして落ち着きがなかった彼女が、ピタッと体の動きを止めて、どのように感じているかを落ち着いて話してくれた。母親には、彼女の様子を書き留めてもらうように依頼した。同時に、自宅内の環境を変更してもらうように依頼した。その夜の日記にはこう書かれていた。「友だちが泊まりにきていたにも関わらず、ぐっすり寝たようだ。妹と一緒に夕食を食べることができた」
2週間後、装置の微調整のために再度来院。音恐怖症の深刻度を図ると、中軽度にまで下がっていた。さらに、初診時に書いてもらった深刻度表は殴り書きのようだったが、今回は丁寧に絵まで描いてくれていて、精神的に落ち着いてきたことがよく分かった。娘の劇的な変化について話している間、母親は少し涙ぐんでいるようだった。治療は今後も続き、装置なしで生活できるところまで根気よく付き合うことになる。
[耳にいい話]