健康な歯でスマイルライフ
日本では北海道医療大学歯学部で博士号を取得。米国でもロマリンダ大学歯学部を卒業し、2005年にPAN-PACIFIC DENTISTRY(パンパシフィック歯科医院)を開業した中出修先生に、アメリカで生活する日本人へ向けて歯や口腔について、説明していただきます。
歯の神経治療(ルートキャナル)で歯の寿命が縮む?
「歯の神経治療が必要です」と言われて喜ぶ方はまずいないでしょう。「痛い」、「高額」というイメージがある一方で、歯の寿命が短くなることを恐れる方もいます。今回は、その辺の話題について書いていきたいと思います。。
歯の神経治療と歯の寿命
歯髄は、歯の中心部にあって、歯に栄養を供給し、歯の知覚や歯(象牙質)の再生に関わる組織です。虫歯が深くなり、歯髄まで及ぶと、いわゆるルートキャナルで歯髄を除去し、密閉する処置が必要になります。歯髄がなくなると、歯はまるで枯れ木のように年々脆くなります。そのため、多くのケースで土台(ポスト)を作り、クラウンを被せる治療が併せて行われます。
歯の神経治療の成功率は100%ではなく、アメリカで80%程度、日本ではそれよりもはるかに低いと言われています。歯の神経は枝分かれし、複雑な3次元構造を持つことが少なくありません。そのため、ルートキャナルを行った部分を消毒して感染源を完全に密閉することは容易でなく、成功率を下げています。また、ルートキャナル後、歯が抜歯に至るケースの多くは歯根の破折です。特に歯根部入り口の歯の削除量を多くすると歯が薄くなり、歯根の破折のリスクが高まります。昔のルートキャナルの治療では大きく削ることが多かったのですが、最近ではそれは良くないとの考えが浸透してきています。
自分の歯を残すか? 抜歯してインプラントか?
抜歯の判断は、非常に難しいものです。これまでの歯科医や患者自身の経験、好み、歯周病の状況など、自分の歯が今後どこまで残せるかという予後判断に加え、経済状況が左右するように思われます。抜歯してインプラントにする利点は、成功率が高いことかもしれません。ルートキャナルのように、再感染してやり直すリスクが比較的低いのです。しかし、手術が必要ですし、自分の歯のように歯根膜という歯と骨との間のクッションがないので、噛む衝撃が直接骨に伝わります。また、歯根の形状も自然の歯より小さくなりがちで、小さな歯根から一気に歯冠部にかけて広がる不自然なクラウンの形状になることが多いという欠点もあります。利点と欠点を踏まえたうえで、自分の歯をルートキャナルで残すか、インプラントにするかを判断することになります。
まとめ
確かに、浅い虫歯治療で済んだ歯よりも、歯の神経治療をすると歯の寿命が短くなると言えます。大きく深い治療では、歯も脆くなることが多いからです。今は材料も進化し、むき出しになった神経の部分を消毒し、生体親和性の高いセメントで密閉すると、ルートキャナルを回避できる割合が増えてきました。しかし、感染がすでに歯髄の深部にまで及んでいる場合は、ルートキャナルとなります。早め早めの治療で、ルートキャナルを回避することが賢明であることは間違いありません。