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【特別編】上手な歳の重ね方〜女性の命を守るヘルスケア

女性の命を守るヘルスケア Vol.24

アメリカ生活中に乳がん、卵巣がん、子宮がんを経験する患者の心に寄り添い、悩める女性たちをサポートするSHARE 日本語プログラムによる寄稿シリーズ。現在のアメリカの医療制度で今、日本人の私たちができることを探ります。

第24回【特別編】上手な歳の重ね方

ソイソース読者の皆さん、初めまして。今回は特別編として老年医学専門医の山田悠史が担当します。

皆さんは歳を重ねることをどのように考えていますか? 「歳のせいで〇〇が痛くなった」とネガティブに捉える方もいることでしょう。老化が体に負の影響をもたらすことは認めなくてはいけませんが、実は歳を重ねるのは必ずしも悪いことばかりでなく、得られるものもたくさんあります。今回は、そんな見過ごされがちなメリットについてご紹介します。

老化と言うと、認知症など脳の機能が衰退していくようなイメージと結び付きやすいかもしれません。40〜50代の方から、「歳のせいで物忘れがひどくなった」などと嘆く声も聞こえてきますが、実際にはどうなのでしょうか。

ワシントン州ではシアトル縦断研究というものが行われ、加齢と共に認知機能がどう推移するのかを評価するため、1956年から約6,000人以上の観察を続けました。7年おきに各人の認知機能がどう変化したのかをまとめた研究論文によれば、計算能力や言語記憶などは、平均的に60歳頃まではあまり変わりないことがわかります。しかし、それ以降は衰退が見られるようになり、74歳頃までには全ての能力が衰退し始めることが観察されています。

一方、空間認識や言語記憶、言語能力などは、20代よりもむしろ40〜50代のほうが能力値の平均が高いことが明らかになりました。もちろん、70〜80代まで維持することは難しいものの、脳の機能は40〜50代まで成長し得るようです。

また、同研究では、認知機能が低下した参加者の一部に認知トレーニングを行い、一定の認知機能の回復が見られたことも報告されています。このことから、認知機能低下の一因は「頭を使わなくなること」にあり、トレーニングにより回復し得ると伝えています。脳は加齢と共に成長し、トレーニングによってそれを維持できる可能性があるのです。

さらに、年齢を積み重ねる中で得た「経験」は何物にも代え難く、それが知恵となり、衰えた部分を補う役割も果たしてくれます。私も医学論文を読むのが好きで、誰にも負けないほど日々知識を獲得しているつもりですが、それでもなお、年上の上司にはまだまだ勝てないと思うことばかりです。経験から得た知恵というのは、いくら勉強しても勝ることのない大きな力になるのだと改めて感じさせられます。

経験を得て賢くなっていくのは、脳だけではありません。実は免疫も同じです。人体は、日々さまざまな病原体にさらされ、感染症のリスクと向き合い続けていますが、頻繁に感染症にかからず済んでいるのは免疫の働きのおかげです。見知らぬ病原体が体内に侵入すると、免疫がそれに立ち向かい、細菌やウイルスといった病原体を駆除します。一度侵入した病原体に対して免疫を記憶しておくことができ、ウイルスによっては数十年もその記憶が続くと考えられています。

免疫を担当する細胞の働きの推移を見てみると、確かに70〜80代には多少の衰退が見られます。ただ40〜60代にかけては、若い頃と比べて、より多様な病原体への免疫を獲得できていることが知られています。

その例として、風邪を引く頻度が少なくなることが挙げられます。20代では年平均で2、3回風邪を引くのに対して、50代からは1、2回に減少する傾向があります。また、70代以降は免疫の衰退が見られるものの、適切な栄養摂取、運動、ストレス・マネジメントが免疫機能の維持に寄与することを示す研究もあります。エビデンスが十分とはまだ言えないものの、これらを心がけることで、年齢による免疫の低下も抑えられるかもしれません。

最高の老後 死ぬまで元気を実現する5つのM <strong>著者山田悠史 出版社講談社<strong>

老化については、とかくネガティブに受け止めがちですが、このように、ポジティブな側面も見逃せません。生きている以上、加齢を避けることができないのであれば、そうしたメリットにもぜひ注目したいものです。歳を重ねることは生きること。「老化はいいことばかりだ」と言いたいわけではありませんが、「悪いことばかりでもない」と、加齢に対する考えを改めるきっかけになれば幸いです。

老化で何が起こるか、どうすれば予防ができるのかについては、拙著『最高の老後』に詳しくまとめていますので、より詳しく知りたい方はそちらもご覧ください。

 

 

山田悠史■米国老年医学専門医。マウントサイナイ医科大学老年医学・緩和医療科所属。ニューヨークで臨床医として活躍する傍ら、日本のニュース・メディア「NewsPicks」の公式コメンテーター、新型コロナワクチンの正しい知識の普及を行う「コロワくんサポーターズ」の代表を務める。また、講談社ウェブ・マガジン「mi-mollet(ミモレ)」での連載や、音声コンテンツ「医者のいらないラジオ」配信なども行い、多岐にわたって活動。この6月に上梓された『最高の老後』が絶賛発売中。


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1976年にニューヨークでスタートした非営利団体のSHAREキャンサー・サポートが母体。同団体の正式日本語プログラムとして、アメリカで暮らす日本人、日系人の乳がん、卵巣がん、子宮体がん、子宮頸がん患者およびその家族の精神的不安を取り除くためのピアサポートと、米国医療事情を日本語で提供。


参考文献

1 Schaie KW, Willis SL, Caskie GIL. The Seattle Longitudinal Study: Relationship between personality and cognition. Aging, Neuropsychol. Cogn. 2004. DOI:10.1080/13825580490511134.

2 Gibson KL, Wu YC, Barnett Y, et al. B-cell diversity decreases in old age and is correlated with poor health status. Aging Cell 2009. DOI:10.1111/j.1474-9726.2008.00443.x.

3 Naylor K, Li G, Vallejo AN, et al. The Influence of Age on T Cell Generation and TCR Diversity. J Immunol 2005. DOI:10.4049/jimmunol.174.11.7446.

4 Heikkinen T, Järvinen A. The common cold. In: Lancet. Elsevier B.V., 2003: 51–9.

5 Maggini S, Wintergerst ES, Beveridge S, Hornig DH. Selected vitamins and trace elements support immune function by strengthening epithelial barriers and cellular and humoral immune responses. In: British Journal of Nutrition. Br J Nutr, 2007. DOI:10.1017/S0007114507832971.

6 Duggal NA, Pollock RD, Lazarus NR, Harridge S, Lord JM. Major features of immunosenescence, including reduced thymic output, are ameliorated by high levels of physical activity in adulthood. Aging Cell 2018; 17. DOI:10.1111/acel.12750.

7 Bauer ME, Muller GC, Correa BL, Vianna P, Turner JE, Bosch JA. Psychoneuroendocrine interventions aimed at attenuating immunosenescence: A review. Biogerontology. 2013; 14: 9–20.

1976年にニューヨークでスタートした非営利団体のSHAREキャンサー・サポートが母体。同団体の正式日本語プログラムとして、アメリカで暮らす日本人、日系人の乳がん、卵巣がん、子宮がん患者およびその家族の精神的不安を取り除くためのピアサポートと、アメリカの最新医療事情を日本語で提供する。