Home 美容・健康 軽い耳鳴りでも油断禁物

軽い耳鳴りでも油断禁物

50半ばの女性が、右側のみの耳鳴りの件で来院。耳鳴りは昔からあり、無視できるほどであったが、3週間ほど前から気になるほどの大きさになって、絶えず聞こえるようになっていた。その症状が始まったタイミングが、ちょうど尿路感染症の最後の薬を服用した直後だったため、最初は薬の副作用かと思ったそうで、しばらく様子を見ていたようだ。そのほかに数年前から、両耳がつんとしたような状況がよくあり、特に右の症状が少し重いとのことだった。にぎやかなところで人の話が聞こえづらかったり、聞き取れなくて何度か聞き返したりすることもあるそう。また、大音量の音楽、掃除機やスチームクリーナーの音が嫌で、聞こえると耳が少し痛くなることも。家族からは、敏感過ぎると相手にされていないようだった。彼女の父親が、昔から音楽をよく演奏していたようで、生演奏を近くで聴いていたので耳がおかしくなったのでは、と他人事のように冗談交じりで話してくれた。以前、耳鳴りで来院した友人にその時の話を聞いていたため、検査をしようという気になったそうだ。

耳鳴りはいろいろな原因で起こり、その原因はほとんど解明できないことが多い。彼女の場合は、処方箋の薬を服用した直後から開始したということで、薬が内耳に何らかの影響をもたらしたかも、と最初は思った。通常の聴力検査に加えて、中耳検査や耳鳴り検査も行った。出た結果は、両耳とも聴力は正常、しかし、聴力の違いが顕著にあった。鼓膜の動きは両耳ともほぼ同じようなものなので、このような違いが出ることは変だった。何度も検査をしたが、同じ結果になった。聴力は一応正常だが、片耳のみの耳鳴りに加えて、両耳の聴力の違いが異常過ぎることから、耳鼻科医を紹介して、CTスキャンやMRIを取ることを勧めた。友人と同じようなことを言われると思って来ていた彼女は、私の提案に少し緊張した様子だったが、すぐに紹介した医師に予約を取った。

CTスキャンの結果、上半規管裂隙症候群だということがわかった。それも、両耳とも。現在の症状は右のみだったが、左側もいつかは症状が出る可能性がある。内耳の横にある三半規管で上向きの半円状の骨に欠損が生じる原因不明の病気だ。大きな音の刺激によって内耳が揺らされることで、耳鳴りやめまい、ふらつきが起こることがあり、聴力の低下につながる可能性もある。この治療方法としては、手術も考えられるが、欠損を特定できない場合、難聴になるリスクが大きい。音の刺激を抑えるために、今のところ耳栓を用いる方法が、いちばんリスクが少ないようだ。

耳鳴りがきっかけで軽い気持ちで来院したが、予期せぬ大きな結果を受け止めることになった。彼女から電話でCTスキャンの結果を聞いたのだが、今後の予定を明るい声で話してくれて、ほっとした。軽い耳鳴りだからと放っておくのは得策ではないケースとして、記憶しておいて欲しい。

[耳にいい話]

真宮 杏奈
ワシントン州と米国認定のオーディオロジスト。ワシントン大学で Speech and Hearing Sciences: Communication Disorders で学士号、Doctor of Audiology プログラムで聴覚博士号を取得。2012年にPAC Audiology クリニック オーディオロジスト(耳の専門医) を開業。 PAC Audiology クリニック オーディオロジスト(耳の専門医) 1605 S. Washington St. Suite 6, Seattle, WA 1370 116th Ave. NE, Suite 201, Bellevue, WA ☎ 425-455-0526