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補聴器によって本来の自分自身を取り戻した患者さん

つい先日、その日の最後の患者が帰った後に受付けのスタッフが「彼女、以前と比べると見違えるようにきれいになりましたね。びっくりしました」と言った。誰のことかと尋ねると、先ほど帰られた90代の女性のことだと言う。この会話がきっかけで、今回は彼女について書くことにした。

2年前、その女性から電話メッセージを受け取った。受付けスタッフがコールバックをし、喧嘩をしているのかと思うほど大きな声でこちらの用件を伝えていた。何度説明しても伝わらないので、私に直接彼女と話をしてくれと頼まれた。私の声は一般の人よりも小さいので、話が通じるのかと疑問に思ったが、10分ほど大声で話して、予約の日時をようやく決めることができた。
電話を切った後は、声が枯れ、全身汗をかいて、ぐったり疲れていたことを覚えている。

予約当日、彼女は少し前かがみでやってきた。服装や髪型は地味だったと思う。最初に受付けスタッフが普通の声量で挨拶をしたが、聞こえていないことに気づいた。大声で問診票の記入や保険証のことについて説明するのが聞こえた。会う前から彼女の難聴の度合いが分かったので、診察室ではすぐに検査ブースに入ってもらい、彼女の耳にイヤフォンを装着した。それを通して検査の説明を行い、検査は無事終了。大声で聴力検査結果を説明した。補聴器を試したいということだったので用意し、器具をつけると、私の普通の声量の声を聞き取ることができた。この瞬間から私はようやく本来の彼女と会話をすることができた。1週間試聴したあとに、彼女はその補聴器を購入することにした。

あれから2年が過ぎた。今では予約確認の電話をしても何も問題なく、スムーズに終わるそうだ。彼女は4カ月に1度、補聴器のメンテナンスのために来院する。それまでほとんど聞こえていなかった高音が正常レベルで聞こえることに慣れるまでは、調整を頻繁に希望した。よほど長い間難聴の状態でいたからか、正常な音が煩わしく思えるほど、音に対する脳の反応がおかしくなっていたのだ。今年に入ってようやく違和感を訴えることがなくなり、一日中補聴器を装着していられるようになった。それとともに、去年の秋頃から服装が色鮮やかになり、髪に軽くパーマをあてて来られるようになった。70代と言っても通用するほどの変身ぶりだった。

受付けスタッフが久しぶりに会った彼女を見て「きれいになった」と言ったのも分かるような気がする。スカーフや小物をうまく使ったおしゃれ、様々な色を着こなすセンス、きっと若い頃は人気者だったのだろう。補聴器によって本来の自分自身を取り戻し、第二の人生が始まったのだと感慨を深くした。

[耳にいい話]

ワシントン州と米国認定のオーディオロジスト。ワシントン大学で Speech and Hearing Sciences: Communication Disorders で学士号、Doctor of Audiology プログラムで聴覚博士号を取得。2012年にPAC Audiology クリニック オーディオロジスト(耳の専門医) を開業。 PAC Audiology クリニック オーディオロジスト(耳の専門医) 1605 S. Washington St. Suite 6, Seattle, WA 1370 116th Ave. NE, Suite 201, Bellevue, WA ☎ 425-455-0526