シアトル駐在日誌
アメリカでの仕事や生活には、日本と違った苦労や喜び、発見が多いもの。日本からシアトルに駐在して働く人たちに、そんな日常や裏話をつづってもらうリレー連載。
磯野雅之■神奈川県出身。2003年兼松株式会社入社。東京本社、北海道支店勤務を経て2017年2月よりKAI ENTERPRISE副社長としてシアトルに駐在となる。かつては自身も選手だったことから、大のアメリカンフットボール・ファンでシーズンの開幕を心待ちにしている。自宅のクローゼットからはスーツと革靴が消え、着々とシーホークス関連の洋服が幅を利かせているとか。
兼松株式会社は世界36カ国に拠点を持ち、食品関係から工業製品まで多岐にわたる商品の売買、およびサービスの提供をする総合商社です。入社以来、私が担当してきたのは牛や馬の飼料、つまりエサです。ひと口にエサと言っても、なかなかその世界は奥深く、いわゆる牧草以外に、大豆の絞りかす、また「ペレット」と呼ばれる、さまざまな栄養分を固めて作ったものなど、いろいろな種類があります。
現在勤務しているカイ・エンタープライズ(KAI ENTERPRISE, INC.)は兼松株式会社がアメリカに展開する事業会社のひとつで、飼料の中でも主に牧草に特化した会社です。ワシントン州は牧草の一大生産地。I-90を東に2、3時間ほど行ったところにあるエレンズバーグやコロンビアベースンといった場所で生産された牧草を、日本や中国、韓国などアジアのマーケットを中心に販売することが私の主な仕事です。そして今の季節は、まさに牧草の最盛期。通常の売買業務に加え、主に日本から検品にやって来るクライアントを現地にアテンドし、その生育状態をしっかりと確かめてもらうことも大切な仕事のひとつです。この時期は州内だけでなく、アメリカ国内への出張も多く、7月に自宅のベッドで眠れたのは5日だけ でした。そして、ただでさえ忙しい時期なのに、このたびの米国と中国間で起こった貿易戦争の波は、私の業務を直撃しています。
商慣習の違いというか、約束事に対する認識の違いというか、ビジネス文化の壁も大きいと感じています。アメリカ国内の問題だけでなく、もう一方で商売相手であるアジア圏や、新しく取り引きの始まった中東の国々との契約や支払いに対する概念の違いもあって、その間に挟まれて頭を悩ませる日々です。当然ですが、各地で時差もあるので、アメリカ・アジア・中東と3つの時間軸で動いており、早朝・深夜・休日に緊急の対応を迫られることもあります。また、現地への車の運転も体力的にかなりの負荷がかかります。7月の月間走行距離はおよそ6,000マイル、ほぼ1万キロを超えました。日本から大切に持ってきたドリンク剤「眠眠打破」を片手に安全運転に努めています。そんな環境で も山積した課題をひとつひとつ乗り越えて、新たな取り引きが始まった時や、大きな売り上げを立てることができた時には、非常に充実感を覚えます。
自宅は、ベルビューの中でもI-90に接続の良いファクトリアにあります。妻とは北海道支店勤務時代に出会いました。週末には(おそらく平日も)彼女がテニスで仲良くなった友だちが自宅に押し寄せ、みんなでにぎやかに食事を楽しみます。そして、切りが良いというか、いよいよどうでも良い話題になってきたところで、私だけリビングルームに移り、テレビで好きなスポーツ中継を観るという流れがすっかり確立しています。人生で初めて、小さいながらも庭のある家で暮らすことができているので、こちらに来てすぐにウェーバーのバーベキュー・コンロも購入。わが家のバーベキューマスターを目指して修行中です。
10月まではこの忙しさが続くので、何か楽しいことでも考えていないとやっていられず、すでにサンクスギビング休暇にビーチ・リゾートへ行く予定を立てました。カイ・エンタープライズのベルビュー・オフィスは、私を含めて4名という小さな所帯です。忙しい時期にしっかり留守を預かってくれるスタッフには本当に感謝しています。将来は、アメリカで会社を経営したこの経験を生かして、一度はアジアを拠点に仕事をしてみたいと考えています。